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2010年の社長就任以来、同社の稼ぐ力を鍛え直し、一時は商社業界トップの座に立った。業績拡大をけん引してきた岡藤正広会長は、日本企業が置かれている状況をどう見ているか。日本が強さを取り戻すには「マーケットイン」への転換が必要と説く。

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(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=的野 弘路)
PROFILE

岡藤 正広[おかふじ・まさひろ]氏
1949年12月、大阪府生まれ。74年に東京大学経済学部を卒業後、同年に伊藤忠商事入社。ほぼ一貫して繊維部門の営業を担当し、2002年に執行役員、04年に常務取締役。繊維カンパニープレジデントとして繊維事業を伊藤忠商事の中核に育てた。06年専務取締役、09年取締役副社長、10年に繊維出身としては、36年ぶりに社長となる。18年4月から取締役会長CEO(最高経営責任者)。

平成の30年間、日本経済はほとんど成長していません。GDP(国内総生産)などのデータが停滞を示しています。岡藤さんは日本が置かれているこうした状況をどのように見ていますか。

 労多くして益少ない。日本人は縁の下の力持ちで損しているということでしょう。例えば、日本が手掛けるキープロダクトは競争力がありますが、国際水平分業のなかで海外メーカーに最終的においしいところを取られています。

 先日、日本は韓国に対し、半導体素材の3品目の輸出管理を強化しました。一般の人はほとんど知らない品目ですが、サムスン電子など韓国企業はパニックに陥っています。日本はそれほど強力なキープロダクトを作っていたのかと気づくと同時に、その割に大きなビジネスをしていなかったのではないかと考えさせられます。何でサムスンは、日本のキープロダクトを使って商売をそれほど大きくできたのかと。

日本は重要な部品を作っているはずなのに。

 似たような経験をしたことがあります。私は繊維部門の出身で、かつて岩手県で婦人向け毛織物を手掛ける会社に招待されたことがあります。千鳥格子の生地などを手掛け、得意先にフランスの高級ブランド「シャネル」がありました。

 いくらで売っているのでしょうかと聞くと1mで5000円、1着で3mほど使うので1万5000円でした。ところが、その生地を使うシャネルの商品は、150万円もの値段で売られていた。衣料品は生地代と縫製代が同じくらいです。いくらシャネルでも、生地を含めた原価は10万円もしないでしょう。

 その会社は、「日本で売るなら(1m当たり)3000円だがシャネルには5000円で売れるので、もうけさせてもらっている」と恐縮している。日本人は本当に人がいい。

日経ビジネス2019年10月14日号 78~81ページより目次