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生き延びられるところを探す

 安全ではだめなんです。投資をしなくなりますからね。生き延びられる場所を探しているわけですよ。そのためには、今後どこが伸びていくかを真剣に考える。それで下を向くところはもう投資しません。

 だからここ数年、ほかにもヨーロッパではルーマニアとか東欧に投資しています。これから必ずあの辺りが伸びていきますよ。早く行かないとどんどん人件費が上がっていきますよ。(進出企業に対する税制優遇など)インセンティブももらえなくなりますからね。

生き延びようと必死になるから先が見えてくるものなのですか。

 やっぱりどこにいっても必ず現場に行って、いろいろな人の意見を聞く。中には政治が非常に不安定だというところもありますね。フィリピンなんかも(現大統領になる)数年前まではそうだったんですよ。

 だからみんな逃げていった。でも、僕はそんなことはないと思ったんですよ。この国は英語ができるし、そのうち必ず強いリーダーが出てくるはずだと。そしたら、ちょっと今までとタイプの違う人が大統領になったのでみんなますます警戒した。でも、そんなことはないと思いますよ。

 何にしても経営者は勘ではだめ。それは投機でまぐれ当たりしかない。米国と中国がこんなになると誰が予測しましたか。僕は予測はできないけど大国は最後は必ずぶつかると思っていた。(ドナルド・)トランプ大統領がここまでやるというのは考えなかったけどね。ただそういうことは起きる。だから当社は世界43カ国に出ているわけですよ。何が起きてもいいように。

 今、中国では国内で開発してモノを作って売るようにしています。それもほとんど中国人に任せてね。だからもうこれは日本の企業ではありませんよと。社名も日本電産ではなく「尼得科(ニデック)」という漢字に変えたりしてやっておるんですよ。

経営者が自ら現場で情報を取り、予測を立てて投資する。ただし、リスクヘッジを必ずするということですか。

 やっぱり現場に行って、そこの飯を食ってそこの人と話をするとよく分かる。先日、トランプ大統領が来日した折には他の経済人と共に招かれて話しました。新興国に投資する際には必ずその国のトップと話します。そうやって判断する。人の情報に頼るだけではだめだと思うね。

昨年6月、社長職を吉本浩之氏に譲られましたが、CEOは継続しました。まだまだトップとしてやっていくわけですね。

 経営者としての判断力を身につけるには時間がかかるんですよ。情報は現場でいろんな所から取った方がいい。で、何か臭いがしてきたときにそれが何の意味を持つのかを察知できるようになる。それにはいろんなことを考えないといけないですよ。

 今年、米国の大手家電メーカー、ワールプールの冷蔵庫部品事業を買収しようとしたら、欧州の規制当局がうちが前に買ったドイツの機械メーカーのコンプレッサー事業を売却しないと(独占禁止法上)認められないと言い出した。結局、売却を受け入れたので200億円の減損となったけど、他社がそれほど警戒しているということが分かった。そういうことも含めて判断力を養わないといけないわけですよ。

そういう判断を下せるようになるまでどのくらいの時間が必要なのでしょう。

 まあ10年はかかりますな。ですから結局、集団指導体制になってくるわけです。だから創業者は長生きしないといけない。私もまだ車椅子に乗りたくないから、毎日朝5時半には起きて運動していますよ。

日経ビジネス2019年10月7日号 56~61ページより目次