全7382文字

経営は先を読まないとだめ

中国との差はどこにあるのでしょう。

 (競争に勝ち抜くための)人材教育が違うね。日本は我々の業界に限らず、今でも入社した後、企業が教育をしている。うちもモーターカレッジを社内に設けていて、一から教育しています。大げさに言えば、それで4~5年はかかる。

 今後は完成品の中のキーコンポーネントがますます重要になります。それはメカ(機械)も電機も、ソフトも様々な技術が優秀でないと勝てなくなるのです。だから先端科学大でもそれらを全部やろうと思ってます。

 もちろん先端科学大の卒業生を日本電産が全部採用するわけではありませんよ。それをやると社内学校になってしまいますから。ドクターも学士号も全部与えないといけないし、海外からの留学生も半分採ろうとしていますからね。彼らにも学位はきちんと授与するわけですから。

事業の話を伺います。駆動系のキーコンポーネントをさらに強くするために、これから電池や半導体の開発・製造までやりますか。

 駆動系のシステムが電池も一体となるのであれば話は別だけど、今のところやる気はないです。もともと、モーターのように「回るもの・動くもの」を事業の対象としてきましたから。

 止まっているものは、やがて生産も自動化していくから価格競争になる。一方、モーターは製造の自動化はできるけど、ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)単位の加工が必要だから簡単にはできません。

 半導体は2年ほど前にルネサスエレクトロニクスを買収しようかと思ったこともあるけど、やめてよかった。うちが半導体工場を持ってもしょうがないからね。私は自社で使う部品としての半導体が欲しいだけです。

中国経済の停滞で市場の不透明感が増すなか、最近になって事業や生産拠点の再編に乗り出していますね。これまでも効率化は散々やってきたはずですが、まだやれるのですか。

 今やっているのは、グループの再編成みたいなことです。自動車の駆動系モーターなんかは、部品を全部フィリピンに集めるとか。工場は世界に100カ所以上あるけど、同じ部品を多くの場所でばらばらに作るな、とやっているわけです。工場の再編などを含むから資金は掛かっていますけどね。しかし、これは成功しますよ。

 例えばフィリピンにあるスービック工場は、今まではスピンドルモーターの工場だったから何十年も育ててきた技能者が何千人もいます。その人たちを今度はグループの減速機メーカー、日本電産シンポが使って、(ロボットなどに使う)減速機を作る。

 普通なら工場立ち上げに1年以上かかるところを、配置転換だから2カ月でできるようになった。フィリピンは英語も通じるし税金も安い。そこで全部作って世界中に配るというわけです。

 大体、中国が危ないというと日本企業も米国企業もみな逃げる。でも、うちは逆。どんどん投資している。浙江省には今年4月、自動車の駆動用モーターの工場を稼働させ始めたりしていますよ。中国は今、米国に(貿易戦争で)やられているけど、そういう国は先で必ず強くなる。

 日本もそうだった。1ドル=360円だったのが一気に70円台まで行ったんだからね。あのときは日本の製造業は壊滅だと言われたけれど、みんな生き残って今でも利益を出している。経営は先を読まないとだめだ。

その先を見通す力はどうやってつけているのですか。

 創業者に共通しているのは、自分の会社が潰れたら絶対に困るというものすごい強い思いを持っているということですね。自分が死んでからも潰れたら困るという思いを持っていますからね。だからといって安全なところを探そうというわけじゃないんです。生き延びられるところを探しているんです。

日経ビジネス2019年10月7日号 56~61ページより目次