スイスの製薬大手ロシュとの提携時には経営企画部長として交渉の責任者を務めていた。それから17年。独自の新薬を送り出し、業績も右肩上がりで伸びている。ロシュに過半数の株式を握られながら独立経営を貫ける秘訣とは。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=小林 淳)
(写真=小林 淳)
PROFILE

小坂 達朗[こさか・たつろう]氏
1976年北海道大学農学部農芸化学科卒、中外製薬に入社。95年中外ファーマ・ヨーロッパ(英)の副社長を経て、2000年に中外製薬医薬事業戦略室長。02年に執行役員経営企画部長として、ロシュとの提携交渉に関わった。12年に社長兼COO(最高執行責任者)就任。18年に永山治会長からCEO(最高経営責任者)職を引き継いだ。16年からアサヒグループホールディングス社外取締役を兼務。66歳。

新薬の創出で独自技術にこだわっていますね。

 失敗を恐れずに自律的にチャレンジする。そんな組織風土が脈々と受け継がれています。

 中外製薬はもともと大衆薬が中心だったのですが、1961年に国民皆保険制度が始まったのを機に、医療用医薬品を扱う研究開発型企業に転換しました。それから、化学合成した低分子の薬剤一色だった80年代に、バイオ医薬に取り組むことを決めた。誰もバイオなんか信じていなかった時代です。そして遺伝子組み換え技術をさらに発展させるため、英国に研究者を派遣して抗体医薬の技術を学び、関節リウマチ治療薬の「アクテムラ」という国産初の抗体医薬を発売しました。

その延長線上に、血友病向け新薬の「ヘムライブラ」があるのですね。

 そうです。抗体の技術をいろいろ改変して、造り出したのがヘムライブラです。自社で開発した薬剤は業績面では非常に大事になります。

 2002年に提携したスイスの製薬大手ロシュの存在も大きい。世界で最高水準の技術力を持つバイオ企業、米ジェネンテック社を傘下に持つロシュグループの中に入ったことで、さらに独創的な創薬研究をやっていこうと、志を高くしました。

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