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戦略組織論の世界的権威であるカナダ・マギル大学デソーテル経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ教授は、分析重視のMBA(経営学修士)を「役に立たない」と一蹴する。人間的な経営を重視しており、企業の管理職には現場を知り、自ら関わるようにと説く。ポピュリズムが席巻する世界をどう見るか、管理職に必要な資質は何かを聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=村田 和聡)
PROFILE

ヘンリー・ミンツバーグ[Henry Mintzberg]氏
1939年9月生まれ。61年カナダのマギル大学卒業、68年米マサチューセッツ工科大学経営大学院で博士号取得(Ph.D.)。『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP)、『戦略サファリ』(東洋経済新報社)などの著書がある戦略論の大家。近年は資本主義に対する考察を続けている。英ランカスター大学、カナダ・マギル大学、ブラジル・FGVスクール、インド・バンガロール経営大学と横浜国立大学で、各国の管理職が相互に交流する共通プログラムを始めた。

5回以上、来日した親日家と聞いています。現在の日本をどう見ていますか。

 日本は健全な社会です。人々は礼儀正しくて親切。街は清潔で食事も素晴らしい。そして風光明媚。「失われた20年」がしばしば話題になりますが、そうは見えない。日本は全体としてよく機能している国だと思います。

 私は「バランスの取れた社会」という考えを最近よく話します。世界はどんどんバランスが悪くなっている。すべてがバラバラでインフラもズタズタな国もある。日本は違います。社会は機能し、極端な貧困もなく、失業者もそれほど多くない。人々は熱意がある。米国を見てください。何も失っていませんが国としてバラバラになりつつある。

米国がバラバラとは、どういうことなのでしょうか。

 以前の米国はバランスの取れた国でした。1989年に「ベルリンの壁」が崩れましたが、資本主義が勝ったのでなくバランスが勝ったのです。それが今、失われています。東欧は政府部門に偏っていました。今の米国は民間部門に偏り過ぎ、問題は(当時の東欧と)同じで、結局は国家が崩壊していきます。

 資本主義は悪いわけではなく、素晴らしいものです。しかし、椅子の脚は4~5本は必要です。1本では座れません。国家も政府だけ、民間だけと1つのセクターでは成り立ち得ないのです。政府だけではだめなのに、共産主義は民間部門を活用しなかった。

 共産主義は第三の部門にも頼りませんでした。私は「多元部門」と呼んでいます。市民社会あるいは共同体のことです。環境保護団体のグリーンピースや慶応義塾大学は特定の個人に所有されていません。そうした組織や社会活動をまとめたものが多元部門なのです。

 2年前、デンマークのコペンハーゲンで多くの管理職とワークショップを開きました。日本人が5人いて政府・民間・多元という考え方を披露し、日本はどうかと尋ねました。あまり多元的な社会ではないとしながらも「政府部門の中が多元だし、民間部門も多元だ」というのです。企業自身が共同体、市民社会で、例えばトヨタ自動車がそうだと。多元部門のあり方が組織内に息づいている。日本はとてもバランスの取れた場所だと思います。

 米国と英国は過度に個人主義的になっている。個人とは民間のことでもあります。日本の場合、個人主義の追求に英米ほど執着していません。それよりも、政府と民間、多元のバランスを取ることを重視していますね。