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2016年8月、鴻海(ホンハイ)精密工業ナンバー2からシャープのトップへ。コスト削減などの構造改革で業績をV字回復。事業構造の変革も急ぐ。3年弱でシャープをどう変えたのか。ロングインタビューに答えた。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=菅野 勝男)
PROFILE

戴 正呉[たい・せいご]氏
1951年9月、台湾宜蘭県生まれ。74年大同工学院(現大同大学)化学工程学系卒業後、大同グループを経て、86年鴻海精密工業入社。2001年鴻海董事代表人。04年鴻海副総裁。16年8月にシャープ社長。17年に鴻海の役職をすべて退任した。18年から現職。今年6月、鴻海の取締役に復帰。趣味はウオーキング。毎朝、堺工場の周囲を散歩するなど、1日1万歩は歩くという(背景はシャープ創業者の早川徳次氏の銅像)。

シャープのトップに就任して3年弱がたちました。振り返ると3年前はシャープが鴻海(ホンハイ)精密工業と産業革新機構(現INCJ)のどちらの傘下に入るかが焦点でした。

 結果から見ると、正しい判断だったといえるでしょう。INCJが支援したジャパンディスプレイ(JDI)と、現在のシャープの業績が示しています。

 3年前、私は1人でシャープ本社に入りました。幹部を連れて日産自動車に乗り込んだ(カルロス・)ゴーンさんと違いますからね。まだ改革は道半ばですが、私はシャープのスタッフたちと一緒に頑張ってきました。

シャープの業績はV字回復しましたが、そもそも何が悪かったのでしょうか。

 私から言うのはよくありませんが、2010年代の経営危機は経営者の能力の問題でしょう。技術や営業など特定の職種しか経験していない人が社長になってしまった。経営には総合的な能力が求められます。危機の際、経営者が対応できなかったのは残念でした。

 私がどう対応したかを簡単に説明しましょう。(鴻海出資前の)16年3月期は、シャープは2559億円の最終赤字でした。コスト削減などで、年間に1700億円超の効果がありました。2559億円から引くと、残りは1000億円もありません。さらに、投資削減や一過性の収益で約1400億円を押し上げました。だから黒字化できたわけです。これは小学校の算数です。そうでしょう?

シャープに経営能力のある人がいなかった理由をどう見ていますか。創業者の早川徳次さんからトップを引き継いだ佐伯旭さんが素晴らしかった半面、権力を持ち続けたことで後継者が育たなかったのではないでしょうか。

 同じ認識ですね。

 人材の育成はステップ・バイ・ステップ。私がシャープに入ってすぐに社長経営基本方針を発表した時にも話しました。「シャープは大きい魚ではなく、速く泳ぐ魚を目指す」と。だから毎日、スピードアップを要求し続けています。私も今日のことは今日決裁します。

 今は後継者の育成に向けたルール作りも進めています。例えば、社長決裁。私が入ったばかりの時は金額を300万円以上に引き下げました。そうしなければ、会社の問題が分からない。まずは会社のすべてを知る必要がありました。でも共同CEO(最高経営責任者)体制を敷いた18年1月には2000万円以下の決裁権限を与えました。今年7月からは1億円以下にします。

日経ビジネス2019年6月17日号 68~73ページより目次