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AI(人工知能)研究者を数多く抱えるカナダ・トロント大学で、AIビジネスを最前線で率いる。AIは社会をどう変えるのかという問いに正面から取り組みながら数多くの起業を支援してきた。シンギュラリティーを否定する一方、AIは社会を根底から変えると見る。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=村田 和聡)
PROFILE

アジェイ・アグラワル[Ajay Agrawal]カナダ・トロント大学ロットマン経営大学院教授。ブリティッシュコロンビア大学で戦略学と経済学の博士号(Ph.D.)を取得。専門は経営戦略と起業家精神、イノベーションの研究。同校に創造的破壊ラボ(CDL)を創設し、IT(情報技術)戦略や、イノベーションの地理的条件について研究を続けている。

AI(人工知能)は、これからどんな役割を果たし、経済活動にどのような影響を及ぼすのでしょう。

 人工知能をシンプルに考えると、要するに予測を安くできる技術です。例えば、何かモノの価格が下がったら、世の中がどうなるかといったことを予測できるようになります。それによって経済活動は変わります。予測がこれまでとは変わるので「力」の変化があるのです。

ロンドンでは、タクシー運転手の賃金の優位性が薄れるという(写真=アフロ)

 ロンドンのタクシー運転手は職を得るために何年も学校に通いますが、最速ルートを予測するAIの登場で、その必要がなくなります。

 AIが労働者の賃金を上昇させる例も挙げましょう。脳外科医ががんの手術をする際、かつては周辺の健康な細胞も腫瘍とともに取り除かざるを得なかった。画像からAIを通じてがんになるかどうかを予測すれば、医者はその可能性がある細胞だけを切除できます。AIは腕の良い労働者の生産性を高め、賃金を増やすことになるでしょう。

 ロボットにAIを搭載した場合の効果も考えてみてください。できることが増えます。頭と体を使う労働者の富を、機械や工場など資本を所有する人々に移転しているともいえます。

日経ビジネス2019年5月20日号 40~45ページより目次