スクラムを軽視していた

これまでは接戦でも勝ち抜いてきました。今回は何が違ったのでしょう。

 掘り下げて考えれば、監督の準備不足に行き着きます。優勝回数を重ねるにつれて、感動の質や大きさは変わっていきました。喜びをより大きなものにしていくには、自分たちの心をコントロールしなければならない。油断してはいけないし、新たな戦いに挑み続けるフレッシュな心理状態にする必要があります。これは簡単なことではありません。最後は気持ちが少し緩んでいたのかとも思います。

 もちろん、手を抜いたわけではないし、守りに入ったわけでもありません。ただ、本当にむきになって挑戦したかというと、どうだったでしょうか。

準備不足というのは、どのあたりにこれまでと差があったのでしょうか。

 専門的な話になりますよ(笑)。前提として、今のスポーツには安全性の確保が求められているということがあります。一般の人に受け入れられるには、頑張れば手の届く範囲の競技でなくてはならない。ラグビーにおいて危険性が最も高いのは、敵味方8人ずつが組んで押し合うスクラムです。安全性を脅かさないルール運用になっていくと判断していたので、ある程度の力の割き方でも通用するかと思っていました。スクラムを鍛えるには大変な時間がかかるのですが、我々はむしろ多様なプレーの練習を心がけていました。そういう意味でスクラムを軽視していた部分はあります。実際、敗れた準決勝はスクラムの存在が大きく、相手は我々のウイークポイントを突いて勝利しました。何度も対戦して何度も負けることはないと思いますが、あの試合は相手の戦略がはまりました。

勝負事は追いかける方が力を発揮しやすく、追いかけられている方は、自ら何かを切り開かなければいけない面がありませんか。

「選手自らが自己鍛錬に向かう組織が強い」「ゼロを1にする、新しいものをつくり出す姿勢を続ける」という(写真=北山 宏一)
「選手自らが自己鍛錬に向かう組織が強い」「ゼロを1にする、新しいものをつくり出す姿勢を続ける」という(写真=北山 宏一)

 そうだと思います。9連覇してきた中でも、圧倒できていた年とクロスゲームになっていた年がありました。相手との力量の差が、縮まったり離れたりしたわけです。すべての大学が我々をターゲットとしてくる中、受けて立つにはよりクリエーティブな要素が必要になります。1を2に伸ばすだけでなく、ゼロを1にする努力が欠かせません。勝ち続けている側は、見えないものをつくり出す作業を繰り返し行わなければならないのですから。

20代はもがいていた

従来の体育会の気質とは違い、自主性を重んじる改革を進めたそうですね。組織スポーツだと統制の方を優先してしまいそうですが。

 強い力で統制してコントロールするのも一つの手法だと思います。急を要する状況では効果を得やすいかもしれません。ただ実際の社会では統制、コントロールといった管理の仕方は受け入れられにくくなっています。人間は本質的に自立心を持てばモチベーションが上がると思います。自立心はクリエーティブのもとになる想像力を高めることにもつながります。一方で統制され、管理されていると指示待ちの状況をつくり出してしまう。学生が生きる将来は、よりクリエーティブな発想力が求められる時代が来るのではないでしょうか。だからこそ、選手の自立心を育むことを意識しています。

ボールをダイナミックに動かす傾向が強まるとみている(写真は対天理戦、写真=共同通信)
ボールをダイナミックに動かす傾向が強まるとみている(写真は対天理戦、写真=共同通信)

 今後のラグビーはボールを伸び伸びとダイナミックに動かす傾向が強まると考えています。戦略的な戦い方を実行できた上で、変化に対応できるチームが有利になります。重要度が増すのは一人ひとりの状況判断です。09年度に初優勝した頃、そういうイメージはありませんでしたが、変化に強い人間づくりが将来きっと役立つと考え、それを普段の行動にも求める中で、ラグビーの質も変わってきたように思います。

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