プロ棋士はみな羽生さんと同じようにAIに関心を持っているのですか。

 人によって違います。自分のやり方で行くという人もいるし、積極的に取り入れるという人もいます。AIという道具はあっても、いい使い方がまだ分かっていないので、それを人間が学んでいるというのが現状です。

モチベーションは一定でない

羽生さんは天才として現れて、挫折なく上り詰めた印象を世の中に与えました。しかし、プロになってからの苦労や挫折はあったのではないでしょうか。

 これから先、将棋にどうやって対応していくかということの繰り返しでした。パソコンによる棋譜のデータベースが出てきたとき、インターネットが出てきたとき、今まで見たこともないような新しい作戦が出てきたときに、どう対処するか。それをずっと続けている感覚です。10代の頃から今まで、基本的には変わりません。

 将棋は時代とのマッチングが大事です。現役のプロ棋士は160人くらいいますが技術面でそれほどの違いはありません。違いを生むのは、そのときのはやりの戦法と自分のスタイルがどれくらいマッチしているかということです。トレンドに合わせ過ぎると持ち味や個性が死んでしまうので、そこは残しながら現状に対応する。あるいは今後に向かい努力する。私は「オールラウンダー」と評されることがありますが、自分なりにトレンドに対応していくうちに必然的にいろいろな作戦を取るようになっているのかもしれません。

 最近は若い人の棋譜をよく見ています。プロになっているかいないかくらいの人のアイデアから新しい作戦やトレンドが生まれることがあるからです。インターネットが登場し、地方在住の人が勉強して強くなれるようになったのは大きいですね。以前は大都市圏の子供が有利でしたが、ほとんどといっていいほど地域差がなくなりました。

将棋のことを考える時間は1日にどのぐらいあるのでしょうか。

 頭の中でも考えられるので考えたいと思ったときにそうしています。これぐらいの量を考えなくてはいけないという感覚は持っていません。何もしていないとき、ちょっと間を空けたときのほうがいいこともあり、テーマによってアプローチの仕方は変わります。休むときは休み、集中するときは集中するようなメリハリは大事で、休日は何もしないでぼんやりしています。

何十年も将棋を続けながらモチベーションを維持できるのは新しい作戦やアイデアといった発見があるからですか。

 モチベーションは一定ではないんです。4年に1度のオリンピックに向けて調整するアスリートなら、集中を切らさずに本番にピークを合わせることもできると思うんですが、棋士の何十年というキャリアではそれは難しい。ある程度の浮き沈みがあることを前提に、自分が発見していないことや興味があること、面白いと思うことについて考えていくということです。30年でも40年でも100年でも、ずっとやっていれば何か新しい発見はあると思います。

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