プロ棋士がしのぎを削る世界で最終的に何が勝敗を分けるのでしょう。

<span class="fontBold">「無冠は取ったり取られたりを繰り返す中の現象の一つ」と話す羽生氏</span>(写真=北山 宏一)</p>
「無冠は取ったり取られたりを繰り返す中の現象の一つ」と話す羽生氏(写真=北山 宏一)

 小さな違いを見極めることが重要です。1センチではなく1ミリの、小さな差です。「これは危ないかもしれないけれど、切っ先で見切れて大丈夫」というときもあれば、本当に切られてしまうこともある。プロ同士の対局は互いに有効な手段が見いだせないケースがほとんどです。覚えたてのころは指したい手がいっぱいあります。ある程度積み重ねてくると一番いい局面をつくる手順を考えるようになる。それを対局者が互いに繰り返すと、最後は打つ手がなくなる。いい形が全部できてしまっているから何をすればいいか分からない場面がずっと続く。手を替え品を替え、考えて打開していく感じなので、先のことはほとんど見えていません。

 要するに後出しじゃんけんの状況を作りたいんです。自分が何かしたいのではなく、いかに相手の手段を封じた上で手番を渡し、有利な状況を作り出せるかということです。すごく単純に言えば、歩の1枚ずつで対局したら先攻が必ず取られてしまう。それが少し複雑になっているだけの話です。

近年はAI(人工知能)が発達し、将棋やチェスに応用されています。未開の局面が解明されることもありそうです。

<span class="fontBold">「電王戦」など、プロ棋士とAIが対局する機会も増えてきている</span>(写真=共同通信)</p>
「電王戦」など、プロ棋士とAIが対局する機会も増えてきている(写真=共同通信)

 明らかにそうでしょう。AIが登場し、これまでの定跡があまり重要でなくなりました。私が10代、20代で学んだセオリーはほとんど意味をなくしています。人間との一番の違いは、AIには古いとか新しいという概念がないということです。昔ははやったが今は廃れてしまった戦法をソフトが見せることがある。これが面白いところです。対局を中継していると、ソフトによって評価できるので、ミスをしたとか、いい手だったとか、リアルタイムで検証できるようになってきたのもこれまでと違いますね。

 人間が指す将棋は100手から120手くらいで終わることが多いのですが、ソフト同士の対局はもっと長いことがあります。マラソンは42.195キロで決まっていますが、それが50キロぐらいになるような、競技そのものの質を変える可能性があるということです。

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