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中学生でのプロ昇格以来、常に棋界の第一線に立ち続け、47歳で前人未到の永世7冠を獲得した。2018年12月の竜王戦で敗れ、27年間にわたり常に1つは保持してきたタイトルをすべて失った。若手棋士の台頭やAIの発達など棋界の変化は著しい。戦い続ける理由を聞いた。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=北山 宏一)
PROFILE

羽生 善治[はぶ・よしはる]氏
1970年、埼玉県所沢市生まれ。小学6年生でプロ棋士養成機関「奨励会」に入会した。中学3年生で史上3人目の中学生プロ棋士。19歳で初タイトルを獲得(竜王)し、25歳で史上初の7大タイトル独占を果たした。47歳で史上初の永世7冠。これまでに獲得したタイトルは通算99期にも及ぶ。2018年12月、通算100期をかけた第31期竜王戦7番勝負で挑戦者の広瀬章人八段に敗れ、竜王を失冠、27年ぶりの無冠となった。

中学生でプロ棋士になって33年のキャリアを積んでいます。そもそも将棋は「仕事」という感覚はあるのでしょうか。

 12歳で奨励会というプロ養成機関に入ったときには、仕事や職業といった感覚はありませんでしたね。もちろん棋士は目指していましたが、複数の選択肢から将棋を職業として選んだという思いは今もありません。ただ、子供の頃から年齢制限によってプロになれず、去っていく人を数多く見ると、いいかげんな気持ちでやっているわけにはいかない世界だというのは、自然と意識するようになりました。

数ある子供の遊びの中で、なぜ将棋に夢中になったのですか。

 野球やトランプ、ラジコンといった遊びのひとつとして将棋も覚えた感じがあります。他のゲームと違い、全然コツが分からなかった。こう囲いをつくったら崩されにくい、こういう形なら攻めやすいというのが部分的に少しずつ分かるのがすごく面白かった。

 将棋の局面は研究され尽くしているものもありますが、もちろん未開のところも多く、今でも新たな発見があります。全体の可能性の膨大さに比べると、何十年やっても見えるのはまだほんのひとかけらなんです。

後出しじゃんけんに持ち込む

将棋で強くなるためには、やはり資質や才能が必要ですか。

 ぱっと局面を見たときに、いい手が浮かぶかどうか、駄目な手が瞬間的に分かるかどうかというセンスの要素はあります。持って生まれたものでそれができる人もたぶんいると思います。

 積み重ねの中で力を磨く面もあります。長い歳月をかけて取り組む競技なので継続する力は問われます。性格も大事で、思い詰める人にはつらい職業です。団体競技やスポーツではチームメートのミスや審判、風向きなど言い訳する余地がありますが、将棋は一切できない。突き詰めると自己否定につながってしまう。だからある種のいいかげんさというか、柔軟さがある人が向いていると思います。完璧な対局というものは基本的にありませんから。

日経ビジネス2019年3月11日号 92~95ページより目次