全5031文字
前回までのあらすじ

 流通大手のアーリーバード&エフ・ホールディングスでは、日本でコンビニエンスストアの事業を成功させたカリスマ経営者、大木将史の体制が続いていた。傘下のスーパー、フジタヨーシュウ堂が業績不振に陥る中、将史は業績堅調なコンビニ事業、アーリーバードの体制を一新しようとする。そんな折、大株主の米国の投資ファンドから、コーポレートガバナンスの問題を指摘するレターが届く。

(前回を読むには、こちらをクリックしてください)

 「それにしてもクロス・カウンターは、えらく社内事情に詳しいですね」

 週刊水曜日の記者、北見真一は言った。先ほどから編集長と、米国の投資ファンド、クロス・カウンターがアーリーバード&エフ・ホールディングスに送ったレターの文面をパソコンで見ていた。

 「奴らは事業再編も促しているが、本筋の目的は、大木の息子が後継者になることを阻止しようというものだ。俺は、創業者である藤田俊雄側が動いていると見たな」

 編集長は言い、これを読めとばかりにレターの最後の部分を指さした。そこには「取締役会の皆様がすべての株主とアーリーバード&エフ・ホールディングスの全ステークホルダーの信認義務を的確に遂行すべきだと十分に認識しており、(噂されているように)将来、大木氏の御子息を昇格させるために、暫定的な幹部を指名することで、大木氏の御家族による世襲を築くことはさせないと強く確信しております」と書かれている。

 「この文句を読んだら取締役、特に社外取締役はビビるぜ。もし社長交代を認めて、世襲を許すような社長人事をおこなったら、訴訟もんだからな」

 編集長が興奮して言う。

 「藤田名誉会長に会えればいいのですが」

 北見は、2年近く前に甲府で俊雄に取材して以来、会うことは叶っていない。あの時、将史の息子翔太が、社内でジュニアと呼ばれていることを伝えた。俊雄は初めて聞いたように驚いていたが、あの時、後継者を巡る争いは、すでに始まっていたのだ。

3

 「田村、なんだこれは」

 将史が怒りを爆発させている。手には、クロス・カウンターからのレターが握られている。

 「お読みになりましたか」

 田村は苦り切った表情で聞いた。

 「読んだとも。奴らこんなガセネタをばらまきやがって。俺が息子をいつ社長にしたいと言ったか」

 「噂を真に受けているんですよ。馬鹿な連中です」

 田村は、将史の怒りに媚びるように言った。

 「まさか名誉会長がクロス・カウンターと手を組んでいるんじゃないよな」

 将史は険のある表情をした。

 「それはないと思いますが」

 田村は答えた。

日経ビジネス2019年8月5日号 74~77ページより目次