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前回までのあらすじ

 日本を代表するスーパーマーケットチェーン、フジタヨーシュウ堂の社長を藤田俊雄から引き継いだ大木将史だったが、日本では、総合スーパーが伸び悩んだ。68歳となった将史に、俊雄は、後継者を育て、引退時期を自分で決めるよう話すが、将史は、銀行設立という新たな目標を抱えていた。バブル経済崩壊で金融業界は揺らいだが、将史は消費者は便利な銀行を求めていると確信していた。

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 準備室に関係する銀行は銀行経営の難しさが痛いほどわかっている。また経済環境も悪い。振り込みや現金払い出しサービスを行うのであれば、銀行にしなくてもいいではないか。そういう考えなのだ。専門家に相談しても、素人が銀行を経営するのはどうかと思うと疑問視されてしまう。所管である金融監督庁の銀行設立に求めるハードルも高かった。今のままではアーリーバードの店舗に色々な銀行の出張所が作られるだけのことなのだ。

 将史は、派遣した役員の報告を受ける度、どうしても銀行を作りたいという将史の意図が十分に伝わっていないとのもどかしさに苛立っていた。

 ──銀行にしなければ預金を預かることができない。将来のサービス展開が展望できない。

 ──ただの出張所扱いでATM(現金自動預け払い機)を置くだけでは、大家に過ぎない。

 ──利用手数料も自分たちで決められない。

 アーリーバードの全店舗に置かないと均一な利便性を提供できない。しかし銀行の都合で設置できない可能性がある。

 「出張所ではなくて本格的な銀行ではダメなのか」

 将史は、報告に来た役員に言った。

 「私たちはその方向で話をしようとしていますが、今のところ、それは難しいの一点張りで、なかなか話し合いがまとまりません」

 役員は言った。

 「わかった。なんとか銀行を説得して、アーリーバードが求めるサービスができるように検討を進めてくれ」

 将史は苦渋を帯びた表情で言った。なぜ銀行を作ろうと思ったのか。それは既存の銀行が客の方向を向いていないからだ。

 銀行の営業時間は午後3時までと短く、振り込みや預金引き出しなど、人々が銀行に求めるサービスがまったく客本位ではなく、銀行都合だ。そんな銀行サービスに風穴を開けたい。絶対に客に喜ばれる。

 アーリーバードは生活者のどんな不便にも応え、便利さを提供する企業だ。これは貫かねばならない。妥協はない。今までも俺は、初めてを成し遂げてきた。妥協せず、目的に向かって徹底的に進んできたからだ。

 日本ではコンビニは成功しない。小さな商店、雑貨屋はみんな上手くいっていないじゃないかと言われる中、アーリーバードを成功させ、コンビニを定着させた。様子見だった他社も、今では追随しているではないか。

日経ビジネス2019年6月17日号 58~60ページより目次