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前回までのあらすじ

 俊雄はスーパーマーケットチェーン、フジタヨーシュウ堂を育ててきたが、古参社員ら幹部が総会屋に金を渡して逮捕された事件の責任を取り、社長を退任する。後を継いだのは、アメリカから取り入れたコン藤田ビニエンスストア、アーリーバードを日本で展開して成功させた大木将史だった。だが、好調なコンビニを横目にスーパーマーケットは苦戦する。ある日、俊雄は将史に「引退」の話をした。

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 フジタヨーシュウ堂の業績が向上しないのは、社員たちが本流意識の上に胡坐をかいているからだ。危機感を持つのは一時的で、少し業績が向上すると、再び胡坐をかき始める。今は、そんな時期なのだ。将史が口を酸っぱくして、危機感を訴えても本流意識が抜けきらない。それは、創業者であり現名誉会長である俊雄が、フジタヨーシュウ堂を破壊すると言ってくれなければ無くならないのではないか。俊雄こそフジタヨーシュウ堂の社員に向かって、このままだと会社が無くなる、全てアーリーバードになってしまうぞと言って欲しかった。将史には、それは言えない。俊雄の聖域だからだ。

──成功モデルを破壊すべきは、私ではなくあなたです。

 将史は、俊雄に言いたいと思ったが、ぐっと言葉をのみ込み、堪えた。恐らく息子で専務の秀久を後継者に据えたいと考えているのだろう。そうに違いない……。所詮、フジタヨーシュウ堂グループと言っても個人商店なのか。

 「退く時は自分で決めるとのお言葉、きちんと受け止めさせていただきます。私もよき後継者を育成するように努めさせていただきますが、まだまだやるべきことが多く残っております。中途半端で終えるわけにはいきません」

 将史は、険しい表情で俊雄を見つめた。

 「久しぶりにこうして話しますが、どうですか、蕎麦でも取りますか? 丁度、昼時ですからね」

 俊雄は緊張をはらみ始めた空気を和ませるかのように言い、秘書に蕎麦の出前を頼んだ。

 将史は、昼食はいつもアーリーバードの新作弁当と決めているのだが、せっかくの申し出なので受けることにした。

 事前に頼んであったのか、蕎麦は時間を置かずに運ばれてきた。俊雄は、蕎麦好きである。

 「ところであなたは私が長男の秀久を後継者にしようとしているとお考えなのでしょうね」

 俊雄は蕎麦を啜った。

日経ビジネス2019年6月10日号 126~129ページより目次