前回までのあらすじ

 株も土地もどんどん値上がりする好景気が日本を覆っていた。銀行は貸し出しを増やし、スーパーマーケットのセイヨーは高級リゾートに投資、スーパーサカエも出店を加速、また借入金を株に投資する食品スーパーなど、多くの企業がバブルに巻き込まれていった。フジタヨーシュウ堂の藤田俊雄と大木将史は経営の効率化に取り組む一方、世の中の流れに不安を募らせていた。

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 いつの間にか俊雄も将史も、食品スーパーの社長、脇谷崇史の気持ちになってしまったのか、沈痛な表情になっている。

 「それは大問題ですよ」

 

 将史は深くため息をつきながら言った。

 「脇谷さんは弟さんに、商売というのは基本に忠実でないといけない。こんなあぶく銭が儲かる時代は長く続かない。そんな金があったら店を直し、社員の士気を上げるようにしなさいと切々と言ったらしい。だけど財テクとやらで儲けている弟さんは聞く耳を持たない。自分は学校もろくにでていない。弟は恥ずかしくないようにと、大学まで行かせた。それで経営を任せたのに、この体たらくだ、情けないと嘆いておられました。それで急遽、社長の座から退かせ、自分が社長に復帰して、株投資や海外投資を整理して、なんとか原点に復帰しようと苦労されているらしい。でも、株で儲かるものだから、弟さんの頭はすっかりおかしくなっていたっておっしゃっておられてね」

 俊雄の表情が曇る。

 「商売の基本を忘れる時代になりました。なんとかしなくてはなりません」

 将史も声を沈ませる。

 「大木さん、なぜ、私がこんな話をしたのか分かってくれますか」

 俊雄が真剣な表情を将史に向けた。

 「秀久君のことですね」

 将史が頷く。

 「その通りです。君から見れば親ばかかもしれませんが、私も普通に人の親ですので悩んでおります」

 俊雄が話すのを将史は黙って聞いている。

 「私が商人ですから息子にも商人になれというのはおかしな話だと思います。息子に他に適性があり、やりたいことがあるならその選択は息子に任せるべきです。そう思っています。脇谷さんが嘆かれているように私の考えを息子が引き継いでくれなければ、経営は迷走します。よく教育してやってくださいませんか」

 俊雄は将史を見つめた。