2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故から12年がたつ。ユニークなスタートアップ企業が次々に進出、「フクシマバレー」とも呼べる様相だ。4月に注目の研究機関も設立される。新たな局面に入っている福島を歩いた。
「米国シリコンバレーのような開発環境に加え、さまざまなネットワークも整ってきた」
メルティンMMI(東京・中央)代表、粕谷昌宏氏は福島の今をこう表現する。2013年設立で社員約25人の同社は、人の手の動きをリアルタイムで再現して動くアバターロボットの開発で幅広い注目を集める。生体信号を利用した医療機器は既に実用化。脳と機械を結び付けるブレーン・マシン・インターフェースにも取り組むなど、技術に定評がある。
企業吸い寄せるテスト施設
同社が拠点を置くのが福島ロボットテストフィールド(RTF、福島県南相馬市)だ。被災地を中心に新産業創出を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の中核施設として、太平洋に面しており震災と原発事故に遭った「浜通り」エリアにつくられた。
テストフィールドの約50ヘクタールの敷地には、滑走路や緩衝ネット付き飛行場などを持つ無人航空機エリア、浸水した建物などがつくられた水中・水上ロボットエリア、再現した市街地などのあるインフラ点検・災害対応エリアを備えている。研究棟などの開発基盤エリアには、メルティンMMIなどスタートアップを中心に全国から集まった企業や研究機関約20社・団体が入居し、日々実験や研究開発に取り組む。「環境が整っているRTFでは必要なテストがすぐにできる」と粕谷氏は話す。同社は開発したロボットを将来、原発の廃炉作業に導入する構想を持つ。
RTFは20年の全面開業から3年ほどが経過する中、進出企業の中には手厚い補助金を活用しながら早くも近くに工場を建設するところが出始め、シリコンバレーのように産業の層が厚みを増しつつある。
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