三井物産が東南アジアを中心に健康・医療プラットフォームの構築を急いでいる。2011年に出資した病院グループが持つ3000万人分以上の患者データを活用する。資源偏重の収益構造を脱するためにまいた種が芽を吹き、大きく育とうとしている。

シンガポールのマウント・エリザベス・ノビナ病院。IHHヘルスケアの拠点病院の一つだ
シンガポールのマウント・エリザベス・ノビナ病院。IHHヘルスケアの拠点病院の一つだ

 BMW、メルセデス・ベンツ、ポルシェ……。車寄せにはドイツの高級車が列を成していた。アジアを代表する富裕国シンガポールのイメージを裏切らない車列の脇を抜けて、エントランスに足を踏み入れるとまたぜいたくな空間に目を見張った。

 ダークブラウンを基調とする落ち着いた雰囲気。まず目に留まるのはグランドピアノだ。床や受付カウンターには惜しみなく大理石が使われ、大きなソファがゆったりと並ぶ。

 病院の取材と聞いてきたが、高級ホテルか富裕層向けのコンドミニアムかと見まがう空間には、白衣姿の人も見当たらない。

 シンガポールで最もラグジュアリーな病院として知られる、ここマウント・エリザベス・ノビナ病院を訪ねたのは、この病院を傘下に持つ民間病院グループでマレーシアに本拠を置くIHHヘルスケア(IHH)を舞台に、大手商社・三井物産の収益の柱が育ちつつあるからだ。

巨大病院グループに成長

 三井物産がIHHに初めて出資したのは2011年。当初の出資額は約900億円だった。19年に約2300億円を追加出資してIHH株の32.9%を持つ筆頭株主になった。

 11年当時はマレーシア、シンガポール、トルコの3カ国で16病院を展開していたが、三井物産の出資を機に規模拡大に乗り出す。積極的なM&A(合併・買収)や新規開院で、計10カ国で83病院を営むアジア最大手、世界でも5本の指に入る巨大な病院グループに成長した。約3500床だった病床数も1万5000床程度にまで増えた。

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 規模拡大に合わせて、経営の効率化も進めた。医療機器や備品を集中発注するなどの取り組みによって、IHHのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は21年12月期に約42億7900万マレーシアリンギ(約1320億円)と11年12月期の6.5倍に伸張。5.1倍に膨らんだ売上高の伸び率を上回った。