東京海上ホールディングス(HD)が海外保険事業を急拡大させている。20年前、グループ全体の利益に占める海外事業の割合は数%にすぎなかったが、足元では過半をうかがう。大型M&Aだけでなく、小規模な買収も組み合わせながら事業ポートフォリオを分散させ、安定成長を図る。

2019年から東京海上HDの社長を務める小宮暁氏。常務執行役員に就いた16年から1年間、米コロンビア大学に留学した異色の経歴を持つ(写真=吉成 大輔)
2019年から東京海上HDの社長を務める小宮暁氏。常務執行役員に就いた16年から1年間、米コロンビア大学に留学した異色の経歴を持つ(写真=吉成 大輔)

 本店ビルの建て替えのため、東京海上HDが一時的に本社を構えている東京駅近くの「常盤橋タワー」。37階にある社長室に掲げられた大きな世界地図に目をやりながら、同社の小宮暁社長は力を込めた。「これまでやってきたことが実を結んできた」

 これまでやってきたこととは、海外保険事業の強化だ。2022年3月期、同社の災害発生に伴う保険金支払いに備える「異常危険準備金」の影響などを除いた「修正純利益」は前の期に比べ約45%増の5783億円だった。そのうち2523億円を海外事業で稼ぐ。前の期比で海外事業の増益幅は2.75倍にも上る。

 19年から東京海上HDの社長を務める小宮氏。社長就任2年目となる20年には新型コロナウイルス禍、そして世界で自然災害が頻発するなど損害保険業界には逆風が吹いた。21年度にはその反動もあったとはいえ、大幅増益を記録。23年度までの中期経営計画期間中に「修正ROE(修正純利益・純資産を基にした自己資本利益率)を12%程度まで高める」との目標も前倒しで実現した。

護送船団の終焉が出発点に

 同社が海外事業に本腰を入れ始めたのはおよそ20年前のこと。1996年の保険業法改正によって保険行政が「護送船団方式」から「自由化」へと大きくかじが切られた時期だった。東京海上HDは日本市場の競争激化が予想される中、海外市場に活路を見いだし2000年、英領バミューダ諸島で再保険事業を一から始めた。

タックスヘイブン(租税回避地)であるバミューダ諸島で約20年前に始めた再保険事業も売却に至った(写真=ユニフォトプレス)
タックスヘイブン(租税回避地)であるバミューダ諸島で約20年前に始めた再保険事業も売却に至った(写真=ユニフォトプレス)

 再保険なら東京海上HDの強固な資本基盤が生きる。加えて欧米の保険会社との取引を通じて、海外事業拡大に向けた経験を積むことができると考えた。並行して、保険市場が未発達で地理的・文化的な親和性があるアジアを舞台に小型のM&A(合併・買収)を繰り返し、元受け事業も広げていく。

(写真=ロイター/アフロ)
(写真=ロイター/アフロ)
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