ファミリービジネスでは後継者難が深刻化し、「大廃業時代」を迎えている。だが、世界的には好業績で知られ、長期的な視点で取り組める強みがある。そんな特性を生かすのが後継者によるイノベーション、ベンチャー型事業承継だ。
スノーピーク
第2世代がアウトドア市場へ 売上高は先代の50倍に
「古い」と見なされがちなファミリービジネスだが、実は先代までの事業基盤を生かしイノベーションを起こしやすい。一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事は「跡継ぎには大きな可能性がある」と話す。それを実践する一社がスノーピーク。山井太会長は父が創業した同社でアウトドア事業を始め、売上高を先代の約50倍の257億円(2021年12月期)にした。まずはアトツギイノベーションの典型といえる山井氏のケースを見てみよう。

スノーピークは新潟の「ものづくりの街」、燕・三条地区にある。山井氏の父が金物問屋として創業し、登山用具などの製造に事業を広げた。
山井氏は明治大学を卒業後、東京の外資系商社に入社。休日にアウトドアを楽しんでおり、「ハイエンドのアウトドア用品が欲しい」と考えていた。ここから「自分と同じ考えの人がいるはず。新事業になるのではないか」と発想。やがて父から家業に戻ってほしいと連絡を受けた山井氏は「父の会社ならば社員がいて金融機関との関係もできている。新事業を実現するには家業を継いだほうが早い」と考え、地元に戻った。「やりたいことがあって入る以上、最初から父の会社を10倍、100倍にしようと思った」と山井氏は振り返る。
後継者には大きな可能性

当初からイノベーションの意識は強かったが、順風満帆だったわけではない。親子間での事業承継は、「それまでの成功」を知る親と「次の成功をつくらないと生き残れない」との危機感がある後継者の間で考えに違いが生じやすい。山井氏も父との行き違いはゼロでなかった。
状況を変えたのが「数字」だった。新事業が成長し、父の代の売上高の2倍になる頃には、父は山井氏に何も言わなくなった。「先代に認めてもらうには数字が一番だ」と山井氏は強調する。父との関係では「創業者としてどう位置づけるか」にも心を配り、製品カタログでは多くのページを父の創業期のエピソードなどに充てた。父が亡くなった後は母が一時、社長に就任。山井氏は1996年に母から社長を引き継いだ。
ここから組織の見直しにも取り組んだ。山井氏の頭の中には、父の会社に入った頃に取引先の金融機関の支店長から言われた「家業を企業にすることがあなたの仕事だ」との言葉がずっと頭に残っており、組織の透明性を高め、人材育成を進めた。
2020年に社長を譲った長女の梨沙氏はアパレル部門を立ち上げ業績をさらに拡大。アトツギベンチャーは次世代に引き継がれている。
「ファミリービジネスの後継者にはやはり大きな可能性がある」。山井氏はこう話す。スノーピークの成功からは、ファミリービジネスの後継者の強みが浮かび上がる。次ページからはどうすれば成果を上げられるかをさらに掘り下げてみよう。
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