COLUMN 
mRNA薬でも水平分業体制は続くのか
医薬品のCDMOが急成長した理由

 CDMOとは医薬品開発製造受託機関(Contract Development and Manufacturing Organization)の略。製薬業界では、CMO(医薬品製造受託機関)と呼ばれる受託ビジネスがあったが、CDMOは製造プロセスの開発や製剤開発、治験薬製造なども行う。商業化されるよりもかなり早い開発の初期段階からサービスを提供する。

AGCバイオロジクスの米ボルダー工場に設置されたバイオ医薬原薬製造用2万Lの大型タンク
AGCバイオロジクスの米ボルダー工場に設置されたバイオ医薬原薬製造用2万Lの大型タンク

 バイオ医薬、特に抗体医薬の製造には、動物細胞向けの大型培養タンクなどに多額の投資をする必要があるため、臨床試験に対して多額の投資リスクを負担する必要がある製薬企業と、製造設備に対する投資リスクを負担するCDMOとで、水平分業が進んだ。バイオ医薬の製造設備が従来の低分子化合物の製造設備とは全く異なり、新規の設備投資や製造ノウハウの獲得が必要だったことが、分業が進んだ主因だ。資本金が手薄なベンチャー企業が、医薬品開発の担い手として台頭してきたことも理由に挙げられる。

 2000年代後半から抗体医薬の市場が急拡大し始めたことや、先発品の特許が満了してバイオシミラーが登場したことなどから、バイオ医薬のCDMO市場は急成長してきた。抗体医薬の新薬開発は依然としてハイペースで、今後も市場の拡大は継続するとみられている。

 一方、mRNA薬でも、抗体医薬に比べれば製造設備への投資が多額ではないが、独特の製造設備やノウハウを必要とすることから、CDMOによる水平分業体制になるとみられている。ただし、バイオ医薬のCDMOに対する需要が旺盛なため、mRNA薬にまで投資の手が回らないとする企業も多い。

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 INTERVIEW 
東京大学医科学研究所・石井健教授に聞く
日本勢は「品質管理」に勝機

 COVID-19ワクチンでmRNAが新たなモダリティーとして成功したのを受けて、研究開発に乗り出す企業が増えている。猫も杓子(しゃくし)もという状態だ。

自然免疫、ワクチン研究の第一人者。mRNAワクチンにも詳しい。
自然免疫、ワクチン研究の第一人者。mRNAワクチンにも詳しい。

 長年、mRNAを研究してきた立場からすると歓迎すべきことだが、一方で、モデルナやビオンテックが長年、巨額の投資をしてきたのを見てきたので、今更後発で参入しようとしても、「時、既に遅し」ではないかとも思う。ただ、mRNA薬の技術がまだ完成していないことを考えると、日本が得意とする技術改良によって、挽回の機会はあるかもしれない。

 2社のmRNAワクチンは、ペンシルベニア大学が出願した修飾核酸の特許を利用して成功した。この特許を回避しようという研究もあるが、製造の効率なども含めてかなり強力な特許であることは確かだ。ただし、数年後には特許期間が終了するとみられており、その後を視野に入れた研究開発競争が水面下で激しくなっている。

 ただ、重要なのは核酸そのものよりも、DDSだろう。COVID-19ワクチンでは、DDSとしてLNPを利用して成功したが、ワクチンの副反応の要因になってもいる。LNPの代わりに、有効性は維持したまま副反応を抑えられるようなDDSを開発すれば、ブレークスルーの可能性はある。

 もっとも、DDSにしろ、核酸の製造方法にしろ、既に様々な特許が出願されており、がんじがらめになっているのも確かだ。後発で参入するのは簡単ではない。

 CDMOなどの形で事業化する場合はコストも大きな問題になる。日本企業に勝ち目があるとしたら品質管理の部分だろう。混入が避けられない不純物をどのように検出して、取り除くか、という部分でもまだ技術革新の余地はある。コスト競争はかなり厳しいと思うが、安全性をブランドにできれば戦えるのではないか。(談)

日経ビジネス2022年9月12日号 36~41ページより目次

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