ワクチン以外に応用広がる

 いずれもCOVID-19向けだが、mRNA創薬のターゲットは感染症の予防ワクチンだけではない。mRNAは、生体内でたんぱく質をつくり出すシステムだ。がんに対する免疫反応を誘導するたんぱく質をつくり出すようにmRNAを設計すれば、がんワクチンになるし、特定の酵素をつくり出すように設計すれば、その酵素を持たない遺伝性疾患の患者の治療に使える可能性も出てくる。

 大型の培養タンクを利用して、動物の培養細胞を使って製造する抗体医薬は製造コストがかさみ、薬価が高騰する一因になっている。mRNAの製造工程もそれなりに複雑だが、抗体医薬ほどには高額な設備を必要としないため、製造コストを大幅に削減できる可能性がある。

CDMOから投資加速

 日本の製薬企業も既に水面下ではmRNAワクチンや治療薬の研究に着手しているようだが、創薬で成功するまでには何年もの時間がかかる。だが、ワクチンを含むmRNA薬の開発製造受託機関(CDMO)のビジネスが、既に国内でも動き出している。

 宝ホールディングス傘下のバイオ企業であるタカラバイオは21年11月、前述のVLPセラピューティクスからの委託でmRNAワクチンの原薬製造に乗り出すと発表した。同社は細胞医薬や遺伝子治療薬のCDMOとしての設備を持ち、mRNAの鋳型となる環状のプラスミドDNAの治験薬製造の経験がある。

 「mRNA原薬の量産は未経験だが、研究レベルでは製造の経験があった。mRNA薬が今後、どのぐらい大きく広がるかは未知数だが、伸びる可能性はあるので、先回りして体制を整えている」と峰野純一取締役は話す。

 リコーは22年7月、神奈川県藤沢市にmRNA原薬の製造設備を設けてCDMO事業を行っている米エリクサジェン・サイエンティフィックを子会社化した。エリクサジェンには19年に資本参加していたが、出資比率を引き上げるとともに、今後3年かけて8~10の製品を並行して製造できるように設備を増強する。

 「製薬企業や大学の研究者から研究開発用のmRNAの受託を目指して、多品種少量生産の体制を整備することにした。大規模な商業生産まで受託するかはまだ分からないが、製薬企業がmRNAの製造で困っているなら、お手伝いしようというスタンスだ」(リコーバイオメディカル事業センターの佐藤宰所長)

 CDMOは単に医薬品の製造を受託するだけではなく、研究開発段階から関わり、製造プロセスの開発、治験薬の開発・製造なども行う。当初は売上高が小さくても、受託した製品が量産に至れば売上高が拡大する。mRNA薬についても同様に、製薬企業が研究に着手し始めた段階から支援しようと動き出している。

 福島県南相馬市にmRNA原薬工場を建設中のアルカリスは、医薬品関連企業のアクセリードと米アークトゥルス・セラピューティクスがmRNA薬に特化したCDMOとして21年2月に設立したスタートアップだ。23年にmRNA原薬工場を竣工した後、同地域にLNPも含めた製剤工場の建設を目指している。

 活動を本格化するに際して製薬企業にヒアリングしたところ、「mRNAに興味はあるが、そもそもどうやって配列を設計すればいいかが分からない」といった声が上がってきた。「COVID-19ワクチンの成功を見て動き出した企業は製造以前に、配列設計のノウハウも不足している。配列設計から支援するサービスを打ち出したところ引き合いが増えた」と河野悠介COOは話す。

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