新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発に寄与し、人類に貢献した「mRNA」。ワクチンだけでなく治療薬など多くの応用が期待され、医薬品各社がこぞって投資を加速している。かつてバイオ医薬の波に乗り遅れた日本勢は、今度こそキャッチアップできるのか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを短期間で実用化することに貢献した「メッセンジャーRNA(mRNA)」。この技術革新を機に、製薬業界が大きく変わる兆しを見せている。
製薬産業では、低分子化合物やたんぱく質、核酸など、医薬品や治療方法を構成する物質の種類を「モダリティー」と称する。1970年代に遺伝子組み換え技術が登場し、80年代には人工合成したたんぱく質でできたバイオ医薬が実用化された。2000年前後になるとバイオ医薬の一種である抗体医薬が出現し、その後、医療用医薬品市場を席巻。日本の製薬企業のほとんどが、このモダリティー革新に乗り遅れた苦い経験を持つ。
COVID-19に対して開発された米ファイザーとドイツのビオンテック連合、米モデルナのワクチンはともにmRNAという新たなモダリティーを利用したものだ。実用化に寄与する重要な技術を見いだした米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授は22年4月に来日した際、「mRNAは遺伝性疾患治療のゲームチェンジャーになり得る」と会見で語った。製薬産業は今、再び大きなモダリティー革新に直面している。
mRNA創薬をめぐる競争は既に始まっている。米国の臨床試験データベースによると、COVID-19、インフルエンザ、エイズ、ジカ熱などの感染症予防ワクチンが大半だが、がん治療ワクチンや、希少な遺伝性疾患治療薬の試験も進む。試験実施者の中には、大手製薬の英グラクソ・スミスクラインの名前などもある。
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