ドイツ企業との資本業務提携から13年、工作機械を売って終わりの事業から脱皮した。機械とソフトウエアやサービスを組み合わせて、最適なソリューションを提案する。顧客は「理由があるから、高くても買う」──。日独融合によって新境地を切り開いた。

 白く明るい空間で働く人の中には、女性の姿も見える。建屋の奥から、人が立ったまま入ることができそうなクリーム色の大きな箱が等間隔に並ぶ。いわゆるライン生産の現場だが、造っているのは自動車でも家電でもない。金属を鋭利なドリルで削って複雑な形に加工する工作機械だ。

 ドイツ南部バイエルン州の中でも南に位置し、オーストリア国境にほど近いフロンテン。夏はトレッキング、冬にはスキーを楽しむ多くの人々が訪れるこの山岳リゾート地に、工作機械の世界最大手、DMG森精機の工場がある。

 同社にとって伊賀工場(三重県伊賀市)と並ぶ主力生産拠点のフロンテン工場に足を運んだのは7月の初め。広さは東京ドーム3個分に匹敵する14万9000m2。1300人が働く大工場の中は、思っていた以上に静かで整然としていた。時折、工場の外に見える、茶色い牛が牧草をはむ風景と、工場内に並ぶ人の背丈の2倍以上はある巨大な工作機械とのギャップにくらくらする。

 そして、取材見学の最後に目にしたのが冒頭の光景だ。クリーム色の箱は5軸加工機「monoBLOCK(モノブロック)」シリーズのボディー。灰色の台車に載って、工場内をゆっくり進みながら完成品へと組み立てられていく。台車は分速45mmと、肉眼では動いているかどうか分からないほど低速の無人搬送車で、決まったレールの上を走るのではなく、自由に遠隔操作できる。

DMG森精機の欧州最大の拠点、ドイツ南部のフロンテン工場では、無人搬送車を使った工作機械のライン生産が始まっている(写真=Mari Kusakari)
DMG森精機の欧州最大の拠点、ドイツ南部のフロンテン工場では、無人搬送車を使った工作機械のライン生産が始まっている(写真=Mari Kusakari)

 無人搬送車と共に、ライン生産を支えるのが製造支援アプリケーション作成のプラットフォーム「チューリップ」だ。いわゆる「ノーコードシステム」で、プログラミングの専門知識が無くても、直感的に作業手順書などのアプリを作れる。既製品ではなく、内製したアプリに従って作業する仕組みを整えたことで、工場の作業効率は大幅に向上し、人的ミスが減って品質も高まった。

省人化の切り札、5軸機

 フロンテン工場でライン生産している5軸加工機とは何か。従来の3軸加工機は、ワーク(加工対象物)を削る際、ドリルを上から、もしくは側面からしか当てられなかった。これに対し5軸加工機はワーク自体を傾けたりできる2方向の旋回軸を追加したことで、色々な角度から工具を当てて加工できるようにした。曲面加工も容易になった。

フロンテン工場では5軸加工機を生産している(写真=Mari Kusakari)
フロンテン工場では5軸加工機を生産している(写真=Mari Kusakari)

 複雑な形状を加工するのに適しているのはもちろん、これまで複数の工作機械に分担させていた加工を1台で完了できる工程集約に最大の利点がある。ワークを工作機械ごとに据え付け直す作業がなくなるため省人化や自動化にも貢献する。

 世界的に労働人口が減少傾向にあることや、製造業の生産の在り方が、大量少品種から少量多品種、さらには変種変量へと移ってきていることなどから、5軸加工機の引き合いは年々強くなっている。

フロンテン工場で工作機械を組み立てる従業員(写真=Mari Kusakari)
フロンテン工場で工作機械を組み立てる従業員(写真=Mari Kusakari)

 フロンテン工場では2020年9月から、世界に先駆けて5軸加工機のライン生産を開始。生産性は従来比で30%向上し、生産能力も年600台から1000台以上に増えた。フロンテン工場取締役で開発担当のアルフレッド・ガイスラー氏は「現状は1シフト制で1日に3台を完成させていたが、9月からは2シフト制にして倍増を目指す」と意気込む。

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