日本の大企業が大型買収と事業売却を次々と行うケースが増えてきた。市場構造が変わる中で生き残るために、事業ポートフォリオの入れ替えに躍起になっている。現金はため込むが、資本効率は上がらない。日本企業にありがちな経営に決別するための方法を探る。

 「この会社は成長事業がないなぁ」

 昭和電工の高橋秀仁社長は、メガバンクから2015年秋に移ってきて間もない頃、自社の事業を分析してそう感じた。

3つの基準で継続的に事業選別をするという昭和電工の高橋秀仁社長。2015年にメガバンクから移籍し、事業ポートフォリオの見直しを進めてきた(写真=大下 美紀)
3つの基準で継続的に事業選別をするという昭和電工の高橋秀仁社長。2015年にメガバンクから移籍し、事業ポートフォリオの見直しを進めてきた(写真=大下 美紀)

 当時、同社の中核は、エチレンなど石油化学品、モノマーなど機能性化学品、そしてアルミ製品やハードディスク用基板など。市場としては成熟化し、長期的に伸び続ける分野ではない。M&A(合併・買収)や経営戦略を主管する執行役員戦略企画部長に翌16年1月、就任した高橋氏は事業ポートフォリオ自体を見直す必要があるとみたという。

 それから約4年後の20年4月、同社は、半導体向け電子材料や電動化の進む自動車の関連素材に強い日立化成(現・昭和電工マテリアルズ)を約9600億円で買収した。発表した19年末時点の昭和電工の時価総額、約4450億円に対して日立化成のそれは約9520億円。「小が大を飲む」形の巨額買収は、産業界を驚かせたが、それだけではなかった。

 21年になると、昭和電工は採算性の低いアルミ缶、アルミ圧延、食品用ラップ、プリント配線板、セラミック、鉛蓄電池の各事業と上場子会社の化学品商社、昭光通商を次々と売却していった。その企業価値は約1700億円に達した。

昭和電工マテリアルズ(旧・日立化成)は半導体材料を検証・分析できる装置をそろえている
昭和電工マテリアルズ(旧・日立化成)は半導体材料を検証・分析できる装置をそろえている

 大型買収の一方での多数の事業売却で、昭和電工は、化学品の川上寄り成熟市場中心の事業ポートフォリオを大きく変えた。半導体分野では、旧日立化成の強かった後工程用研磨剤のCMPスラリーや、プリント配線基板材料の銅張積層板、感光性フィルムなど多数の高シェア品を手に入れた。同分野では、昭和電工自身も前工程向けの高純度ガス、同溶剤などを持っていたが、手薄な状態だったのを川下側で一気に充実させたのである。

 自動車も電動車の中核になるリチウムイオン電池用負極材や樹脂ギアなどを手に入れ、再生医療分野の受託薬品製造事業も買収で加えた。ハードディスク、石化など既存事業の多くを「安定収益事業」とする一方、半導体、自動車を「コア成長事業」、再生医療分野のライフサイエンスを「次世代事業」に位置づけ、事業ポートフォリオを一気に変えたのだ。

昭和電工が高いシェアを持つ研磨剤のCMPスラリー(左上)、プリント配線板用感光性フィルム(右上)、同高機能積層材料(右下)、樹脂ギア(左下)。M&Aで主力製品を大幅に強化することに成功した
昭和電工が高いシェアを持つ研磨剤のCMPスラリー(左上)、プリント配線板用感光性フィルム(右上)、同高機能積層材料(右下)、樹脂ギア(左下)。M&Aで主力製品を大幅に強化することに成功した

増え続ける日本企業のM&A

注:2022年は1~6月分のみ。日本企業同士、日本企業と外国企業間のM&A件数の合計 出所:レコフ
注:2022年は1~6月分のみ。日本企業同士、日本企業と外国企業間のM&A件数の合計 出所:レコフ
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 日本企業が事業ポートフォリオの入れ替えを本格化している。M&A助言のレコフによると国内企業が絡むM&A件数は、10年の1707件が昨年は4280件。今年は6月までで2203件とさらに上回りそうな勢いだ(右グラフ参照)。

 「件数としては中小企業のM&Aが増えているが、大企業も事業や子会社の買収・売却など再編が増え始めた。それに絡んでファンド系のM&Aが全体を押し上げている」(吉富優子・レコフデータ社長)という。

 グローバル化とデジタル化、AI(人工知能)の進化など技術の大きな変化の中で市場構造が大きく変わっていることがこうした動きの背景にある。