コロナ禍で大きな打撃を受けた居酒屋産業。大手のワタミもその例外ではない。居酒屋業態の店舗は2年余りで半減し、生き残りを懸けた新業態を次々と打ち出した。環境変化に合わせて業態をつくり替える「朝令暮改」を続けたワタミの改革を追った。

「これはいいね、採用」「こっちの肉はやめておこうか」──。
7月1日、東京・大田のワタミ本社では2階のキッチンに渡邉美樹会長兼社長や幹部らが集まり、新メニューを決める毎週定例の試食会を開いていた。渡邉氏は一つひとつの料理を口に含むとすぐ、合否や改善案を提示していく。一つの料理の判断に費やす時間は5分とかかっていない。

この日、最後の試食はバジルソース冷麺。6月末にかみむら牧場で提供し始めたばかりだが、3日を待たずにリニューアルとなった。渡邉氏は毎週、各業態のメニューを味見して回る。焼肉営業本部長の新町洋忠執行役員は、「バジルソース冷麺は味が薄く物足りない」と渡邉氏から指摘を受けていた。
「麺に下味をつけました」。緊張の面持ちの新町氏。渡邉氏は口に含むと即座に「めんつゆを5cc加えて。塩味を強くした皿も別に用意して」と指示した。数分で新たに3種類の冷麺が準備された。その一つを口にした渡邉氏。せつな相好が崩れた。「よし合格、これでいこう!」
提供からわずか3日で味を変える「朝令暮改」。このスピード感がワタミの現状を象徴している。
激変した業態ポートフォリオ
コロナ前後でワタミは変貌を遂げた。全社的に見れば外食と宅食の売り上げ構成比が逆転し、宅食が連結売上高の6割超を占める屋台骨となった。そして外食事業の中身も大きく変わった。「居酒屋大手」のイメージが根強いワタミ。確かに、2020年3月期時点では主力業態約393店舗のうち387店舗、9割8分が「ミライザカ」「鳥メロ」「和民」などの居酒屋業態だった。しかし、22年7月時点では約330店舗のうち居酒屋は195店舗と構成比が約6割まで縮小した。

首都圏などのまん延防止等重点措置は22年3月下旬に解除されたものの、日本フードサービス協会の調査によると、4~6月の居酒屋業態の売上高は19年同月比で45.5~56.4%と低調だ。ワタミも居酒屋業態の店舗数をこの2年余りで200近く減らした。22年も40店舗を閉店させる計画で、「脱居酒屋」が加速している。
では、ワタミはどの業態に商機を見いだしたのか。急増したのは唐揚げ業態。22年7月時点では、最も多い鳥メロの106店舗に次いで、20年夏から本格展開が始まった「から揚げの天才」が96店舗に拡大している。渡邉氏が「次の成長ドライバー」に位置付ける焼き肉業態は、「かみむら牧場」と「焼肉の和民」を合わせて37店舗となった。新業態を矢継ぎ早に打ち出しているが、滑り出しは苦戦することも少なくない。登場から1~2年で戦略を転換した事業もある。
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