企業がイノベーションによって成長するとき、大きなカギを握るのが技術の動向だ。日経BPの技術専門誌の協力により、これから有望な20の技術をピックアップした。日本の未来を照らす技術分野の最新の動きや生かし方を探る。

日本の技術力は国際的に依然として高く、ひと昔前ほどでないにしても世界で十分戦える──。これが日経BPのエレクトロニクス、自動車、IT、製造、建設・建築の専門誌編集長のほぼ一致した見方だ。
特許協力条約に基づく国際特許出願件数で日本は中国、米国に次ぎ3位。停滞が続く日本経済においても、確かな技術を持つことが多くの企業の底力となっているのは間違いない。
ただ、技術があっても、うまく活用できなければ宝の持ち腐れになる。技術を見る上で重要なのは、独自性と同時にどれだけ市場を開拓できるか、というマネジメントの視点だ。総合的に見て、どんな技術が有望なのか。専門誌の編集長コメントも手掛かりに、順を追って見ていこう。(専門誌に掲載した記事を再構成し、文末に媒体名を記した)

人に役立つロボット、繊細な動き追求
ソニーグループ
医療や建設、レスキューなど業務・サービス分野で、人に役立つロボットの開発が進んでいる。富士経済(東京・中央)は、同分野のロボットの世界市場規模は2030年に21年比2倍の5兆7628億円になると予測する。注目を集めるのがソニーグループだ。「日経エレクトロニクス」の中道理編集長は「積極的な投資で世界と戦える技術開発を進めている」と話す。

ソニーはR&DセンターTokyo Laboratory 24と呼ぶ組織をロボット開発の総本山としている。ここで、多脚式の「移動ロボット」、医療向けの「精密バイラテラル制御システム」、未知の物でもつかめる「マニピュレーター(ロボットハンド)」という、開発の“3本の矢”に取り組む。カギになるのは、独自開発のアクチュエーターやセンサーだ。
1つ目の移動ロボットは、15年から設計の構想を始めたタキオンシリーズだ。21年に発表したタキオン3は、4脚だったタキオン1と2から進化し、6脚になった。同年12月、建設現場で実証実験を開始。将来は、人が移動できない極限空間でも活動できる移動技術の“最高峰”を目指している。

可搬重量は20kg。米ボストンダイナミクスが開発した4脚の「Spot」は14kgだ。タキオン3は、階段を上がっていく際、前方にある3本の脚のうち、まず中央の脚を縮めて段差に掛ける。その後、全体を前方に移動し、残りの2本も段差に接地させる。後方の脚はまず、外側にある2本の脚を縮めて段差にのせ、最後に中央の脚を縮めてのせる。
6脚にした理由の一つが階段との干渉を回避すること。4脚ロボットでは、脚機構でかかとや膝に当たる関節部分が飛び出しているため、段差などに引っかかる。タキオン3では、垂直に動く機構に変更。階段の昇降と、旋回や走行の制御を考慮して、前後3脚ずつにした。
脚機構は約40cmの伸縮幅を備え、ロボットの高さの約2倍の長さまで伸ばせる。それぞれの脚が伸縮することで、整地されていなくても凹凸に合わせて安定して走行できる。
ロボットの移動を効率化するため、脚と地面が接する部分に車輪を採用した。4脚ロボットの場合、平らな面を移動する際でも脚を上下させる必要がある。タキオン3は、平地は車輪で走る。
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