水関連の事故が相次ぐなど、日本のインフラがいよいよ危機を迎えている。戦後から高度成長期に築いた設備が老朽化している上、熟練保守員の不足も深刻だ。民間企業の知恵を使う運営方法や、AI(人工知能)など先端技術の活用が求められる。

崩落した和歌山市の六十谷水管橋。紀の川の北側のほぼ全世帯、約14万人が断水の被害を受けた(写真=毎日新聞社/アフロ)
崩落した和歌山市の六十谷水管橋。紀の川の北側のほぼ全世帯、約14万人が断水の被害を受けた(写真=毎日新聞社/アフロ)

 水が不足し、発電所を停止せざるを得ない──。5月25日から、国内最大の発電会社であるJERAは碧南火力発電所(愛知県碧南市)の3号機と5号機を止めた。原因は、愛知県南部に工業用水を提供している「明治用水」の漏水事故だ。

 なぜ火力発電所が止まるのか、疑問に思われるかもしれない。火力で高圧の水蒸気を発生させ、その力でタービンを回すため水が欠かせないのだ。それ以上に、この発電所は石炭火力であることから、排ガスに含まれる有害物質を処理するために多量の水を使っている。

 一時は、発電所全体の最大出力の6割に相当する240万kW(設備容量)の発電設備が止まった(検査中だった2号機も含む)。6月中旬時点でも、170万kW相当の設備が稼働していない。「応急措置で来るようになった別ルートの工業用水ではまだ足りない」(同社)

 トヨタ自動車は井戸水も活用して生産を再開したが、かつて「日本のデンマーク」と呼ばれた同県安城市の農業は水が止まって被害を受けた。「田植えを諦めざるを得なかった農家もおり、現在も4日に1回の限定通水で、特に水圧の低い高台の農地では苦労している」(あいち中央農業協同組合)。6月14日時点で、応急措置により流れている工業用水と農業用水は合計1秒当たり8トンと、従来の4割しかない。

発見が遅れたパイピング現象

漏水問題が長引く明治用水。仮設ポンプを敷いても水量は不足
漏水問題が長引く明治用水。仮設ポンプを敷いても水量は不足

 明治用水は、愛知県を南北に流れる矢作川の水を使おうと1880年に造られ、1957年までに頭首工(取水設備)が造成された。トヨタ本社から目と鼻の先にある現場を訪れてみると、川岸には仮設の管がずらり。ここを管轄している東海農政局だけではなく、北陸農政局や国土交通省などの合計162台のポンプも使われていた。