この記事は日経ビジネス電子版に『LNG争奪戦が勃発 「日の丸ガス田」の開発阻む脱炭素』(4月20日)などとして配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月25日号に掲載するものです。

ウクライナ危機が世界のエネルギー情勢に変化をもたらしている。脱炭素化を進めるなか、化石燃料関連の資産を持つべきか、持たざるべきか。争奪戦の様相も呈するエネルギーの世界で企業は難しい判断を迫られている。

2018年にオーストラリアで生産開始したINPEXのLNG開発事業「イクシス」。日本へLNGを送るため、昼夜を問わず稼働し続ける。調査などで生産開始まで18年を要した
2018年にオーストラリアで生産開始したINPEXのLNG開発事業「イクシス」。日本へLNGを送るため、昼夜を問わず稼働し続ける。調査などで生産開始まで18年を要した

 世界に約600隻ある液化天然ガス(LNG)船の運航状況をリアルタイムで表示する船舶用トラッキングシステム。モニター上には、船の位置を示すオレンジ色の無数の点がLNGの一大産地、米メキシコ湾から大西洋を横断し欧州に向かっているのが見える。以前は多くの船がアジアに向かっていたが3月以降、行き先は変わった。天然ガスのロシア依存脱却を急ぐ欧州連合(EU)各国がLNGをかき集めているためだ。

EUは2022年に世界の1割のLNGを調達する
EUは2022年に世界の1割のLNGを調達する
●世界のLNG貿易量の推移とEUの調達イメージ (出所:日本エネルギー経済研究所)

 2022年にEUが新規調達を見込むLNGは世界全体の貿易量の約1割に上る。日本エネルギー経済研究所の橋本裕研究主幹は「相当なインパクト。LNG市場全体に重大な影響をもたらす」と指摘する。価格高騰を受け、アジアの一部の国では入手しづらくなっており、争奪戦の様相を呈する。

 中国に次ぐLNG消費国である日本も油断できない。日本の総合商社や電力・ガス会社が関与し、日本のLNG消費の8%を担うロシアの天然ガス事業「サハリン2」からずっと供給を受けられる保証はないからだ。岸田文雄首相は4月8日、日本が調達する石炭の約14%を占めるロシア産の輸入を段階的に廃止すると発表した。経済産業省資源エネルギー庁の西田光宏戦略企画室長は「世界のエネルギーの情勢がウクライナ危機以前に戻ることはない」と話し、「ロシアなき世界」も念頭に置いた日本のエネルギー戦略の必要性を説く。

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