この記事は日経ビジネス電子版に『ラトビア外相、「ロシアには絶対に侵攻させない」』(4月6日)、『戦略家が考えるウクライナ発「核戦争」の姿』(3月23日)、『ウクライナ発の疑問、米国が日本に差しかける核の傘は機能するか?』(3月23日)、『「通貨体制守るため、世界は結束を」 元IMF副専務理事・古澤氏』(4月5日)、『「人民元はすぐには基軸通貨にはならない」 中尾・前ADB総裁』(3月31日)、『ジム・ロジャーズ「ウクライナ危機受け、商品や農業への投資加速」』(3月30日)として配信したインタビュー記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月18日号に掲載するものです。

ロシアがウクライナに侵攻して間もなく2カ月がたとうとしている。厳しい経済制裁を受けてもロシアが手を引く様子はなく、人道危機は深刻化している。この冷酷な現実は、世界の安全保障や経済にどんな課題を突きつけているのだろうか。

ロシアに対話、意味がない
エドガルス・リンケービッチ氏 ラトビア外務大臣

無残な姿となった集合住宅。路上にはがれきが散乱し、攻撃の激しさを物語る(3月30日、東部のドネツク)(写真=ロイター/アフロ)
無残な姿となった集合住宅。路上にはがれきが散乱し、攻撃の激しさを物語る(3月30日、東部のドネツク)(写真=ロイター/アフロ)
エドガルス・ リンケービッチ氏
エドガルス・ リンケービッチ氏
1973年生まれ。ジャーナリストを経て国防省に入省。米国防大学修士課程を2000年に修了し、11年から現職。NATO(北大西洋条約機構)加盟を交渉するラトビア代表団のメンバーを務めた。(写真=ロイター/アフロ)

 ロシアによる侵攻は、昨年11月頃から誰もが議論していた。米国情報機関の警告や米国政府の動きを見れば、欧州への侵攻リスクは合理的に考えてかなり高かったと思う。

 ラトビアの安全保障政策への影響はもちろんある。第1にベラルーシのロシア軍駐留だ。ロシアはベラルーシから爆弾やミサイルを運用しているが、ベラルーシはラトビアの隣国だ。その意味で、この地域の安全保障に変化をもたらしている。

 第2に、現時点ではロシア軍部隊のほとんどがウクライナに招集されている。戦略的変化が、刻一刻と状況を変えていくだろう。今ウクライナで欧州が長らく経験してこなかった戦争を目の当たりにしているが、欧州全体とそれぞれの国の安全保障の優先順位を変えることになる。

 経済的な影響は、ラトビアだけでなくすべての国が受けているだろう。エネルギー危機、物価上昇、穀物の供給の不安定化、そして多くの企業のロシア撤退──。これらすべてが世界経済に影響を与えている。

 ラトビアが受ける影響はその一部でしかない。ラトビアとロシアの貿易規模は大きくない。30年前のラトビアの貿易は8割がロシアだったが、最新のデータではわずか8%だ。

 ウクライナでは今この瞬間も人が亡くなっている。(経済的犠牲があっても)この戦争を止めるために、経済制裁やウクライナへの支援などやらなければならないことがある。

難民受け入れに最善尽くす

 我々はウクライナ難民に対して可能な限りの支援をしている。労働市場も開放している。ウクライナはラトビア政府からの金銭援助には頼っておらず、我々の経済的負担になるとは考えていない。我々はできるだけ多くの難民を受け入れて人道的使命を果たすことに最善を尽くしたい。 ラトビアが平和のためにできるのはウクライナを助けることだけだ。私たちの一番の役割は仲介者になることではない。休戦や残虐行為を止める必要性を話し合うことはできるが、現実は変わらない。現時点では対話のような外交努力は何の結果も生んでいないのではないか。

 ロシア政府とのコミュニケーションには、もう一つ問題があるだろう。(開戦前には)さまざまなロシア高官から「ウクライナに侵攻するつもりはない」という発言が数多くあったはず。これは、ロシアが何度も繰り返した戯言だ。2月16日にも「侵攻はない」と発言しており、今のロシア政府に信頼はない。

 ロシアが侵攻をやめなければ戦争は終わらない。我々ができるのはウクライナ支援だけだ。ラトビアはロシアを止めることはできない。

 「1週間以内にウクライナを支配下に置く」というロシアの計画は完全に失敗したと見ている。現在、ロシアはより残忍な戦術をとっており、民間インフラに爆撃し、民間人を射殺し、恐怖を煽(あお)ってウクライナの人々の戦意を喪失させようとしている。残念ながら戦争は、長期化するだろう。

 現在のロシアと協定を結んでも守られるとは限らない。ロシアの軍事・経済がこの戦争に対応できなくなるよう制裁を通じてできる限りの圧力をかけることが非常に重要だ。

 ロシアがバルト3国など欧州の他国を侵攻しようと夢にも思わないように、最善を尽くしていく。我々は国防費を増やし、NATO(北大西洋条約機構)でのプレゼンスを高めたいと考えている。

 日本政府がG7(主要7カ国)内で協働してロシアに制裁を科すことは非常に評価できる。私たちは皆、ロシアを今すぐ止めなければならないという同じ意見を持っていると感じている。(談)