この記事は日経ビジネス電子版に『武田薬品が見せる二つの顔 240年の伝統と究極のグローバル化』(3月30日)、『武田薬品・ウェバー社長の決意「240年後も強い会社に」』(31日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月4日号に掲載するものです。
これほど急速にグローバル化を進めた日本企業がこれまでにあっただろうか。同業大手の「6兆円買収」を経て、従業員もビジネスも行動指針も世界基準となった。武田薬品工業で進む「究極のグローバル化」の全貌を解き明かす。
「世界に尽くせ、タケダ」──。国内の製薬最大手、武田薬品工業がこんなコピーを掲げる2本のテレビCMを2021年12月に放映し始めた。
その1本では、「国籍、経歴、立場の壁をなくして創薬のイノベーションを起こす」として武田薬品がダイバーシティー(多様性)を持つ組織であることをアピールする。1781年の創業から240周年を迎えたことを機に実施したブランディングキャンペーンの一環で制作した。
そもそも、武田薬品はなぜこんなテレビCMを始めたのか。そこには「顔が見えない」と言われることが増えたという危機感があった。
「武田」から「TAKEDA」へ
武田薬品はこの10年ほどで大きく姿を変えてきた。度重なるM&A(合併・買収)や構造改革の末、売上収益の80%以上を海外で上げるようになった。日本の従業員が占める割合はわずか11%まで減少。2021年3月にはビタミン剤の「アリナミン」を手掛ける大衆薬子会社、武田コンシューマーヘルスケア(現・アリナミン製薬)を米投資ファンドに売却し、一般消費者が武田薬品の名前を目にする機会も減った。

世界の製薬大手と競うグローバル企業へと変貌を遂げた一方で、日本人にとっては近づきがたい印象も与えるようになった。それを少しでも改善したいという思いが2本のテレビCMに表れている。
武田薬品のグローバル志向は先々代社長で創業家出身の武田國男氏の時代からだが、03年に就任した前社長の長谷川閑史氏の時代に加速した。08年に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを買収してボストンに研究開発拠点を設け、11年にはスイス・ナイコメッドを買収して欧州や新興国での販売網を獲得した。
極め付きは長谷川氏の後任として14年にフランス国籍のクリストフ・ウェバー氏(15年から社長兼CEO=最高経営責任者)を招いたこと。「次」と噂される人物は社内にもいたが、長谷川氏は日本人を選ばなかった理由を「できる限りの海外経験を積ませたが、まだ足りない部分があった」と後に日経ビジネスの取材で答えている。製薬大手の英グラクソ・スミスクラインなどのグローバル企業でのマネジメント経験が豊富なウェバー氏にさらなるグローバル化を託した。
ウェバー氏は18年、日本企業による買収額として過去最高となる約460億ポンド(当時のレートで約6兆6000億円)でアイルランドの製薬大手、シャイアーを買収することを決断。一部の株主からの猛反発にも遭ったが19年1月に取引を完了させ、世界トップ10を争う製薬企業をつくり上げた。研究開発に投じる金額は年間5000億円程度。スイス・ロシュや米メルクなどには及ばないものの日本の製薬会社としては群を抜く。
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