この記事は日経ビジネス電子版に『ソフトバンク・ヤフー離脱の衝撃 Tポイントは生き残れるか 』(2月14日)、『“ポイント改悪”続きの楽天 始まったキャンペーンと顧客の選別 』(2月15日)、『ANAは陸でマイル圏拡大、三井住友は高ポイント還元カードで勝負 』(2月16日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月21日号に掲載するものです。
年間発行額は1兆円を超える、日本のポイント・マイレージ市場。買い物の“おまけ”から顧客囲い込みのツールへ、各社は「ポイント経済圏」づくりを急ぐ。競争激化でポイントコストが重荷になる中、費用対効果の見極めが重要になっている。

ポイント業界で下克上が起きている。「これまでアクティブユーザー数でナンバーワンだった共通ポイント『Tポイント』の勢力低下は避けられない」。ポイント業界に詳しい野村総合研究所の冨田勝己上級コンサルタントはこう語る。2022年4月、TポイントからZホールディングス(旧ヤフー)とソフトバンクが離脱し、ネット通販や通信料金でTポイントがたまらなくなるからだ。
ヤフーがTポイントを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と資本・業務提携したのは12年のこと。13年にはTポイントをネット上で使う際のIDを、CCCの「T-ID」からヤフーの「Yahoo!JAPAN ID」に統一し、当時4000万人を超えていたTポイント会員を取り込んだ。その直後には、当時ヤフーの会長だった孫正義氏自らが「eコマース革命」を宣言し、先行する楽天市場を追い抜いてEC(電子商取引)サイトナンバーワンになるとぶち上げた。
「これまでが不自然だった」
雲行きが変わったのは、18年にスマホ決済に注力し始めてから。決済事業をソフトバンクの携帯電話ユーザーやヤフー会員の枠を超えて拡大しようと考えたソフトバンクグループは、中立的な「PayPay」というブランド名を掲げ「ポイントについては外部に頼らず自社でやることにした」(PayPayの藤井博文マーケティング本部長)。
PayPayの利用促進へ、19年8月にはYahoo!ショッピングで付与するポイントのうち、基本の1%分以外のボーナスポイントをTポイントからPayPayでの支払いに使えるポイント「PayPayボーナス」に切り替えていた。この4月からは基本の1%分もPayPayボーナスに統一する。藤井氏は「2つのポイントがバラバラにたまるほうが不自然。それが解消されて分かりやすくなる」と話す。
PayPayの登録会員数は4500万人を超え、Tポイントの力を借りる意味はもはやない。PayPayを核に、ECや金融などを抱える「PayPay経済圏」づくりにアクセルを踏む。
異業種間の相互送客から、顧客を囲い込む経済圏競争へ──。業態の異なる店舗やサービスでポイントがためられる共通ポイントを軸に、業界構造がガラリと変わった。
「楽天(現・楽天グループ)、NTTドコモが共通ポイントに参入したことで業界のゲームが変わった」。こう話すのは、「Ponta」を運営するロイヤリティ マーケティング(東京・渋谷)の野田和也常務だ。楽天はECサイトや決済サービス、ドコモは通信サービスを背景に多額のポイントを発行。「自社の経済圏にいるユーザーを実店舗に送客することを売りに加盟店を増やしていった」(野田氏)
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