この記事は日経ビジネス電子版に『「インフレーション・ドミノ」 米国を襲う価格上昇の波』(2月1日)などとして配信した記事を追加・再編集して雑誌『日経ビジネス』2月7日号に掲載するものです。
世界の物価上昇が止まらない。パンデミック下で人手が不足し、物流が停滞し、個人消費は回復の兆しがあるにもかかわらず、物資の供給が制約される。米国、欧州、東南アジアのそれぞれの地域から、食品や消費財、エネルギーなどの商品相場を追う。
欠品防ぐ内製化で
さらなる人手不足に

「食品スーパーで売られている1ドル値上げしたばかりのサーモンサラダが、また1ドル上がって11ドル99セントになった。あらゆる物の価格が上がって貯蓄に回すおカネがどんどん減っている」
米ニューヨーク市マンハッタンの高級住宅街アッパーウエストサイド地区に住む女性は1月中旬、こう言って肩を落とした。米労働省労働統計局によると、米国の食品価格は2021年の1年間で6.3%上昇し、グレートリセッション(08年の金融危機に端を発した景気後退)以来、最も高い数字を記録した。
今や聖域などない。同じ統計によると、21年の価格上昇率はガソリンが49.6%、中古の乗用車やトラックが37.3%、新車が11.8%と運搬・移動にまつわる物価が急騰した。また外食(6%)、アパレル(5.8%)、医療サービス(4.3%)の価格も上昇。21年中にほとんど値上がりしなかったのは処方薬だけだった。
上昇率も悪化する一方だ。21年12月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は7.0%に達し、39年半ぶりの高水準となった。止まらない価格上昇に消費者と企業の我慢が限界に達するのも時間の問題だ。
低所得層に忍び寄る不安
22年1月下旬、企業や飲食店がひしめくミッドタウン地区の格安ピザ店に一人の男がやってきた。小さな店舗には、ピザを焼くオーブンと、焼き上がったピザを一時的に保管しておくショーケース、そして缶飲料を大量に入れた冷蔵庫だけが置かれている。ひっきりなしに客が訪れ、ピザが焼き上がった瞬間に購入していくので、ショーケースにピザが並ぶことはほとんどない。
男はおもむろにポケットから小銭入れを取り出すと、ショーケースの上でひっくり返して小銭をばらまき店員に言った。「2ドル75セントあるはずなので数えてくれませんか」
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