この記事は日経ビジネス電子版に『変身する自動車部品業界』(1月25~27日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月31日号に掲載するものです。
風雲急を告げる電気自動車(EV)シフトが、自動車部品メーカーに変身を迫っている。過去100年以上、車を支えてきたエンジンやその周辺装置は消えゆく運命にある。EV時代への生き残りをかけて、各社は新たな技術開発に心血を注ぐ。

三重県の伊賀盆地。忍者の里として知られる静かな町にトヨタ自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)を主な販売先とする安永の工場はたたずむ。売り上げの半分以上がエンジン関連の金属部品だ。「将来(受注は)間違いなく減っていくでしょう」。加速するEVシフトについて安永暁俊社長は危機感を隠さない。
だが、それを打ち消すように安永氏の頭の中には生き残りのシナリオがある。まず2035年ごろまでは、ハイブリッド車(HV)を含むエンジン車の世界販売台数は横ばいとみており、安永が手掛けるエンジン部品で現在5%前後の世界シェアを拡大する。23~25年度には8~10%への引き上げを狙う。
完成車メーカーはこの先10年程度、売れ筋のエンジン車を残しながらEVシフトを進める。その際、エンジン車のための自前の設備や人員を少しずつ減らす。内製してきた部品を作らなくなると、安永のような外部の専門メーカーが受け皿になれる。ある種の残存者利益を取れるチャンスがあるというわけだ。
こうして時間稼ぎをしながら、安永氏が収益化させようとしているのが、EV用の車載電池に使う電極板の加工技術だ。
加工技術で電池の性能向上
「電池はこれまで材料面の進化が中心だった。加工技術で性能向上に寄与できないかと考えた」。安永の稲田稔技術本部長は狙いをこう明かす。挑んでいるのは、電極板にマイクロ(100万分の1)mレベルの微細な穴を大量に開ける「微細突起金型技術」の実用化だ。

穴を開けることで電解液が電極板に浸透し、充電性能が高まったり寿命が延びたりする効果が期待できるという。長寿命化で使う材料が少しでも減らせれば、電池の材料コストの低減にもつながる。
材料である幅数十cmのアルミシートに1分間に50mの速さで穴を開ける。すでに試作品を完成させ、現在、電池メーカーによる性能評価を受けている。採用となれば加工装置の販売に加え、消耗品である金型の継続的な販売も見込める。早ければ23年度にも事業化したい考えだ。
安永はエンジン部品メーカーとして知られるが、製造設備も自社で開発し、それを車向けの工作機械として外販。トヨタにも納めている。その縁が今に生き、トヨタに社員を派遣して電池や燃料電池車(FCV)向けの設備に関する知見を深める機会を得ている。
●EV化が自社事業に与える影響についての回答
安永のR&D(研究開発)部は創業家出身の暁俊氏が社長に就任した11年に設けたが、当初、専任技術者は1人だけ。だが、「経営のオプションとして電池に関する新分野の開拓をしないといけないという思いで続けてきた」(安永氏)。微細突起金型技術を育てなければ後がなくなるとの危機感を共有し、現在は20人体制で懸命の技術開発に挑んでいる。
自動車部品メーカーがEVシフトの激震に見舞われている。すぐにエンジン車がなくなるというわけではないが、30〜35年にかけてエンジン車とEVの勢力図は大きく塗り替わるのは必至だ。エンジン車で1台当たり約3万点といわれた部品の数はEVで2万点程度まで減少。特にエンジンと変速機のほか、マフラーなど吸排気系の部品・装置は中長期的に消え去るとみられている。
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