この記事は日経ビジネス電子版に『岸田首相に必要なスター・ウォーズの物語力、老後の心配吹き飛ばせ』(12月13日)『最新の遺伝子研究が示す日本の潜在力、高度成長期の元気をもう一度』(12月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月20日号に掲載するものです。

バブル崩壊以降、日本人の不安は増しており景気回復のきっかけがつかめない。経営学の分野では「ナラティブ(物語)」の重要性が認識されつつある。今の日本に必要なのは、人々の気持ちを前向きに変える物語かもしれない。

<span class="fontBold">映画「スター・ウォーズ 」では主人公ルーク・スカイウォーカー(左から2番目)が仲間たちと大宇宙を冒険する</span>(写真=Lucasfilm/AF Archivevans/Mary Evans Pictuer Library/共同通信イメージズ)
映画「スター・ウォーズ 」では主人公ルーク・スカイウォーカー(左から2番目)が仲間たちと大宇宙を冒険する(写真=Lucasfilm/AF Archivevans/Mary Evans Pictuer Library/共同通信イメージズ)

 遠い昔、極東の一角で日本人は泰平の世を謳歌していた。ある日、黒船が来襲し、近代化という大海原へ乗り出した。日露戦争など様々な試練を乗り越えて、欧米に並ぶ「一等国」に駆け上がっていくも、連合国軍との戦争に大敗し、日本社会はいったん死んだようになる。しかし、しばらくすると再び立ち上がり、「東洋の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を果たした。

 遠い昔、はるか彼方(かなた)の銀河系の一角でルーク・スカイウォーカーは退屈な日々を送っていた。ある日、レイア姫から救援要請のメッセージを受け取り、大宇宙に乗り出した。様々な試練を乗り越えて敵の要塞にたどり着くも、大蛇のような生き物に水中へと引きずり込まれ、いったん死んだかと思わせる。しかししばらくすると再び立ち上がり、レイア姫の救出に成功した。果たして要塞を木っ端みじんに吹き飛ばすことはできるのか。大ヒット映画「スター・ウォーズ 新たなる希望」(1977年)のあらすじだ。

ルーカス監督もお手本に

 20世紀に活躍した米国の神話学者ジョーゼフ・キャンベル氏は、古今東西の神話に共通した筋書きが存在することに気がついた。冒険に旅立った平凡な主人公が数々の試練を乗り越え、中盤の山場で最強の敵と遭遇する。死の瀬戸際まで追い込まれるも、復活し、生き生きと新たな人生を歩み始める。そこから故郷に帰還するまでの一連の流れは「ヒーローズ・ジャーニー」と呼ばれる。

 時代、場所を問わず様々な神話に同じパターンが現れるのは、人類共通の集合的潜在意識が存在するからだと、研究者たちは考えている。誰でも心が動かされる、物語のひな型があるという。

<span class="fontBold">ジョーゼフ・キャンベル氏の研究成果をベースにハリウッドの脚本家クリストファー・ボグラー氏が体系化したヒーローズ・ジャーニーが最もよく知られている。ボグラー氏の共著『物語の法則』(KADOKAWA)の解説を基に編集部で作成した</span>(写真=Lucasfilm/AF Archivevans/Mary Evans Pictuer Library/共同通信イメージズ)
ジョーゼフ・キャンベル氏の研究成果をベースにハリウッドの脚本家クリストファー・ボグラー氏が体系化したヒーローズ・ジャーニーが最もよく知られている。ボグラー氏の共著『物語の法則』(KADOKAWA)の解説を基に編集部で作成した(写真=Lucasfilm/AF Archivevans/Mary Evans Pictuer Library/共同通信イメージズ)
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 ハリウッドではスター・ウォーズのジョージ・ルーカス監督をはじめとして、多くの映画製作者がキャンベル氏の研究成果を参考に脚本を練ってきた。

 人々を魅了する「ナラティブ(物語)」はハリウッドのみならず、近年、米国を中心に経営学者や経済学者の間でその重要性が認識されつつある。いわく「人は物語によって状況を理解し、物語に基づいて行動する」。

 戦後、日本人が東洋の奇跡を果たせたのも、敗戦で死に体になった国家が経済で生き返ったのだという、心を躍らせる物語が日本人に共有されていたからだとも考えられる。

 現在、日本は経済の長期低迷から抜け出せなくなっている。1990年代 前半にバブル経済が崩壊してから、日本人の間には将来に対する不安が蔓延(まんえん)しており、復活の糸口をつかめていない。元気がなくなってしまった人々に必要なのは、不安を吹き飛ばす物語ではないだろうか。

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