この記事は日経ビジネス電子版のコラム「ガバナンスの今・未来」のシリーズ「内部告発、その後を追う」にて配信した『雪印食品の牛肉偽装から20年 暗転した告発者、水谷洋一氏の人生』(11月18日)など複数の記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月6日号に掲載するものです。

2022年6月施行予定の改正公益通報者保護法で、企業担当者は刑事罰対象となる。多くの企業は通報制度を設置しているが、周知徹底などの運用面で課題がある。過去、決死の覚悟で不正を告発した通報者の言葉から浮かぶ制度の問題点とは何か。

 「まあちゃん、ご飯できたよ」。兵庫県西宮市のマンションで、同市の倉庫業、西宮冷蔵の水谷洋一社長が、次女の真麻さんに声を掛けた。水谷さんが真麻さんの目の前に鍋の具材とご飯が入った茶わんをそれぞれ置くと、真麻さんは、ややもたつきながらも口に運ぶ。

<span class="fontBold">けいつい損傷で下半身が動かなくなった次女の真麻さんの面倒を見る水谷洋一さん</span>
けいつい損傷で下半身が動かなくなった次女の真麻さんの面倒を見る水谷洋一さん

 水谷さんは2002年1月、雪印食品が外国産牛肉を国産と偽っていたとしてその悪行を告発した。雪印グループは告発によって不正に関わった関係者が逮捕され、実質的に解体された。それからもうすぐ20年がたつ。

 01年夏、「狂牛病」とも呼ばれるBSE(牛海綿状脳症)の症状がある牛が国内で見つかった。国は、牛肉消費の落ち込みを救済するために国産牛肉を買い取ることにしたが、雪印食品がこの制度を悪用。安い輸入肉を国産肉の箱に詰め替え、国産として政府に買い取ってもらい、不正に利益を得ようと企てた。その舞台の一つとなったのが、西宮冷蔵だった。

<span class="fontBold">雪印食品の不正が行われた現場に立つ西宮冷蔵社長の水谷洋一さん(右上は当時)</span>(写真=右上:共同通信)
雪印食品の不正が行われた現場に立つ西宮冷蔵社長の水谷洋一さん(右上は当時)(写真=右上:共同通信)

 西宮冷蔵にとり雪印食品は社の売り上げ全体の約1割を占める大口取引先。雪印食品の担当者に電話し、「ミスで輸入肉が含まれていることに気が付いたということにして国に修正を申請し、返金したらいい」と諭した。しかし、事実を握りつぶそうとした雪印食品の態度を見て意を決した。新聞社に連絡し、記者の取材に応じた。しかしその後、水谷さんの人生も暗転してしまった。

倉庫から9割の荷物が消えた

 告発後、雪印食品以外の荷主から「申し訳ないけど、もう預けられない」などと言われ、詳しい理由を告げられないまま、9割の荷物が消えていった。西宮冷蔵も偽装伝票を作るなど、不正に手を貸したなどとして国から1週間の業務停止命令処分を受けた。