この記事は日経ビジネス電子版にシリーズ『クボタが挑む農業版CASE (1)(2)(3)(4)』(11月22~25日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月29日号に掲載するものです。
売上高2兆円を射程に入れた国内農機最大手クボタがスマート農業に力を入れている。狙うのは国内市場での再成長。デジタル技術で農業経営のあり方を変える試みだ。築き上げた農家との濃密な関係を武器に、ニッポン農業の未来を切り開こうとしている。

利根川に臨む田んぼは一面、黄金色に染まり、白い軽トラックが乾燥が済んだコメを次々と運び出していく。収穫の慌ただしさと高揚感にあふれる風景の中で、オレンジ色の真新しいコンバインがひときわ目を引く。大きな音を立てながら巨大な装置が田んぼの中を走り、外周から内側へと稲穂を刈り取っていく。


千葉県北部の神崎町にある農事組合法人、神崎東部を訪れたのは9月初め。約90ヘクタールの敷地で、コメのほか小麦や大豆も生産する。事務所では、代表理事の大原弘宣氏がパソコンに向かっていた。画面に映っていたのは神崎東部が管理する田んぼや畑の地図だ。
実はこのパソコンとコンバインはつながっている。コンバインには収穫量を計測するセンサーと、水分やタンパク質の含有量から食味を測るセンサーが搭載されている。「今日取れたコメもうまそうだな」──。事務所にいながらにして、大原氏には収穫したコメの量だけでなく味まで手に取るように分かる。
神崎東部は2019年から農林水産省の支援を受けて、体系的なスマート農業の確立に向けた実証実験を進めている。稲作に費やした総作業時間が19年に前年比7%減るなどの成果を生んできた。設備の一切をクボタが提供している。
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