この記事は日経ビジネス電子版の『うつ病発症、収入減少……コロナ禍で露呈した住宅ローンリスク』(10月26日)など複数の記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月8日号に掲載するものです。
一定額を長い間、コツコツと返済する。そんな住宅ローンのあり方が見直され始めた。収入・雇用の不安定化や高齢化など、利用者を取り巻く環境が変わっているためだ。長期でリスクを取り続けることを前提としたローンの仕組みの持続性が問われている。

「毎月の不足分は貯蓄を取り崩しています」──。大阪府在住の井上亮子さん(39歳、仮名)は毎月12万円の住宅ローンの支払いに頭を悩ませている。会社員の夫、晴彦さん(43歳、仮名)が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛といった環境変化もあって2020年秋にうつ病を発症し、仕事を休みがちになってしまったのだ。
以前は、パートタイムの外来看護師として働く亮子さんの6万円を合わせて月約45万円の手取り収入があった。現在、晴彦さんの給与は月13万円ほどで、毎月約20万円の赤字だ。約2000万円あった貯蓄が減るスピードは想像以上に速く、このままでは4000万円で購入した自宅を売却しなければならない。
こうした事例は増えていそうだ。20年3月から21年8月までに金融機関に寄せられた住宅ローンの返済計画に関する条件変更の申込件数は累積5万5000件超と増加傾向にある。
条件変更は主に、返済期間を延ばすことで月々の返済額を軽減するものや、期間限定で返済を利息分だけにして元金を残りの期間で返すものがある。前者は利息分の負担が、後者は期間終了後に返済額が増える。
一定の収入が継続することを前提に返済計画が立てられる住宅ローン。コロナ禍はその目算を狂わせた。家計再生コンサルタントの横山光昭氏は「ボーナスありきで計画を立てた人の多くが返済に行き詰まり相談に訪れる。『ここまで収入が減るとは思わなかった』と必ず口にする」と話す。
収入や雇用の不確実性は、今後も続きそうだ。東京商工リサーチが実施する「主な上場企業の希望・早期退職者募集状況」調査では、19年から募集人数が1万1351人と増加し始めていた。技術革新のペースと消費者の嗜好の変化が早まるなか、企業は人員再配置が欠かせなくなった。終身雇用制度や年功賃金といった日本型雇用のあり方は過去のものとなりつつある。
ローン審査の現場では少しずつ変化も見られる。東海地方の地方銀行で住宅ローン審査を手がける担当者は「昔は転職から3年間は融資できないとしていたが、今は半年でも融資する金融機関も出始めた。数年分の年収を平均して見るなど、年収や勤続年数の捉え方も変わってきている」と話す。共働き世帯が増えたため、ペアローンを拡充するなどの動きも目立ち始めた。
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