この記事は日経ビジネス電子版に『ジャシーCEOは「ベゾス氏の生き写し」 新生アマゾンはどこに行く』(10月6日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』10月11日号に掲載するものです。
今年7月、創業者のジェフ・ベゾス氏がCEOを退任した米アマゾン・ドット・コム。アンディ・ジャシー新CEO率いる売上高約40兆円の「帝国」は、どこに向かうのか。発表されたばかりの新製品群や新体制の顔ぶれから、次なる成長シナリオを読み解く。
「我々が目指すのはアンビエント(いつもそこにある)インテリジェンスだ。ここで、私が見た中で最もマジカルな応用事例が生まれようとしている」
9月28日に米アマゾン・ドット・コムがオンラインで開いた新製品発表会。ハードウエアを担当するデーブ・リンプ上級副社長は開発コンセプトを“ディズニー風”に説明した。
リンプ氏がいたのはディズニーランドで、傍らに米ウォルト・ディズニーの役員もいた。アマゾンの音声AI「アレクサ」を搭載したデバイスに「ヘイ、ディズニー」と話しかければ、ミッキーやグーフィーといったキャラクターたちが応えてくれる有料サービスを2022年から始める。
9種類にも上る新製品のプレゼンターを務めたのは、上級副社長かそれに近いレベルの幹部たちだった。米家電量販店のベストバイや米マサチューセッツ工科大学(MIT)など、提携先の担当者も複数登場し、アマゾンが描く未来の姿を印象づけた。
ベゾス氏の「生き写し」
同社クラウド部門「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の新技術説明会に参加したことのある人なら、きっとこう思ったはずだ。「いかにもアンディらしい演出だ」と。
アンディ・ジャシー氏、53歳。アマゾンの利益のほとんどをたたき出すAWSを長く率いてきた同氏は21年7月、ジェフ・ベゾス氏(57)の後を継いでアマゾンのCEO(最高経営責任者)に就任した。
「ジャシー流」を語るにはまだ早いかもしれないが、創業者の手を離れたアマゾンが新体制の下でどこへ向かうのかが徐々に見えてきた。その姿を「経営体制」「ビジネスモデル」「立ちはだかる壁」の3つの視点から解き明かしていく。
最も変化したのが経営体制だ。アマゾン社内には、創業間もないころに生まれた頭脳集団「Sチーム」がある。Sはシニアの頭文字で、会社の根幹や行く末を左右する重大な決断は、このチームのメンバーで話し合ってきた。上級副社長や副社長クラスになれば誰でも入れるというわけではなく、ベゾス氏の信頼を勝ち取った者だけが「入会」を許される。人数は徐々に拡大し、現在は30人弱にまで増えているようだ。
ジャシー氏はSチームの中でも特にベゾス氏に近く、周囲には「ブレーンダブル(生き写しの頭脳)」と呼ばれてきた。21年9月に開いた採用イベントで、ジャシー氏は1997年の入社後に「シャドー」と呼ばれる任務に就いた経験を披露した。
「朝から晩までジェフとすべての行動を共にした。1対1の会議にも出席したのでもはや1対1でもなくなっていた。彼から多くを学んだ」
経験したのはジャシー氏だけではない。ベゾス氏は創業当初から、いつかは退くことを念頭に自身の生き写しを量産していたのだ。
そんなベゾス氏がCEO交代に向け用意周到だったのは言うまでもない。CEO交代を発表した2021年2月の約2年前から、アマゾンは社外から3人を幹部に招き、うち2人をSチームにも加えた。その人選から、ベゾス氏が新体制に託した思いがくみ取れる。ちなみに近年は、Sチームに加えるメンバーをベゾス氏とジャシー氏で決めているようだ。
Powered by リゾーム?