この記事は日経ビジネス電子版に『宇宙旅行も安全に デブリ除去で先陣、アストロスケール』など3回(8月18日~20日)にわたって配信した記事を再編集し、雑誌『日経ビジネス』9月6日号に掲載するものです。

役目を終えて不要になった人工衛星やロケットの残骸、宇宙ごみ(スペースデブリ)。他の衛星にぶつかれば、放送・通信など様々な地球上の経済活動に影響を及ぼす。「宇宙のSDGs(持続可能な開発目標)」としてデブリ対策は必須で、各国企業が技術開発を競う。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)
[画像のクリックで拡大表示]

 「人生最良の日だ」。7月20日、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏は叫んだ。ベゾス氏が設立した米ブルーオリジンがこの日、同氏を含む4人を乗せて初の有人宇宙飛行を実施したのだ。同社は有料で客を乗せる商業飛行の第1弾と位置づけている。

 ブルーオリジンの成功は、観光やエンターテインメントの分野で宇宙利用が進む時代の幕開けと言える。ハリウッドスターのトム・クルーズ氏は国際宇宙ステーション(ISS)での映画撮影を計画しており、2020年5月に米航空宇宙局(NASA)のブライデンスタイン元長官が「トムと撮影できることに興奮している」と言及していた。

 宇宙を巡る華やかな話題が続く裏で、デブリを除去しようとする技術者たちは年々、危機感を強めている。旧ソ連が1957年、人類初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げて60年余りたち、デブリが地球の周りを駆け巡っている。

衛星同士が衝突、大破の事故

 1mm以上のデブリの数は1億個を超える。飛行のスピードはライフル銃の弾丸の7倍程度にもなる。デブリ同士が衝突し合い自己増殖する「ケスラーシンドローム」が起きた場合、デブリは加速度的に増えてしまう。

 2019年、米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)率いる米スペースXの巨大通信衛星網プロジェクト「スターリンク」の衛星が、欧州宇宙機関の人工衛星と衝突しそうになり、間一髪で同機関が軌道を変え回避した。09年には米国の通信衛星に使用済みのロシア衛星が衝突し、大破した事故が実際に起こっている。

 地球上にリデュース、リユース、リサイクルの3Rがあるように、デブリの対策も「これ以上ごみを増やさない」など3つの考え方で進む。日米欧の企業による実証実験が20年代に次々予定され、実用化が目前に迫っている。

 今ある以上にデブリを増やさないよう、新しい衛星を打ち上げる段階から回収の仕組みを備え付けておこうというデブリ対策の考え方がある。この分野の技術で先頭集団にいる日本企業が、スタートアップのアストロスケールホールディングス(東京・墨田)だ。

 カザフスタンのバイコヌール宇宙基地。3月下旬、同社初のデブリ除去実証衛星「ELSA-d(エルサディー)」が打ち上げられた。これまで地上で技術を開発してきたが、宇宙での実証に移る。

 このサービスでは、まず通信会社や放送会社が衛星Aを打ち上げる際、磁力を持つアストロスケール独自のドッキングプレートを組み込んでおく。衛星が役目を終えた後、同社がデブリ回収用の衛星Bを打ち上げ、衛星Aを磁力で捕獲し回収する。その後大気圏に突入、燃え尽きる。

 アストロスケールが宇宙での実証に踏み切れたのは、高速で動くデブリに近づいてしっかり捕まえる「RPO技術」にめどが立ったためだ。

 デブリはどのくらいのスピードで飛んでいるのか、回転の速さはどれくらいなのか──。通信のできない相手に近づきながらセンサーなどで情報を把握。ドッキングプレートのある場所を探し、捕まえる。岡田光信CEOは「誰もこの技術をつくれなかった。今回の実験でその技術を証明する」と語る。

 実験で使うソフトウエアやセンサー、アルゴリズムを応用し、24年には複数のデブリを除去できる衛星「ELSA-M(エルサ・エム)」をサービス第1弾として実用化する。同社には官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)などが投資し、20年10月時点で累計210億円を調達した。

 7月、国のロケットを打ち上げてきた三菱重工業と軌道関連サービスの技術で提携した。同社宇宙事業部技術部の木村友久主席技師は「ロケットでは大型部品が自動で燃え尽きる仕組みを導入してきた。SDGsの観点でもう一段進んでデブリ対策に取り組むときだろう」と話す。

続きを読む 2/4 ひもを使って大気圏で燃やす

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3328文字 / 全文5399文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「SPECIAL REPORT」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。