この記事は日経ビジネス電子版に『「coal」の文字があればアウト、融資不可ドライな現実』(8月23日)、『日本は廃棄物、アンモニア、地熱発電で打って出ろ』(8月24日)、『再エネ拡充するからこそ、LNG火力が必要なのです』(8月25日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』8月30日号に掲載するものです。

石炭火力発電設備への金融支援停止を先進国やアジア開発銀行が打ち出した。日本も対応が必至。再エネ社会への橋渡しとなる、移行戦略を提示できるか。廃棄物、アンモニア、地熱による発電など、現代に即した産業育成が必要だ。

 「インフラ整備にファイナンスが付かなくなったんだ、何とか助けてくれないか」。日本の経済産業省・資源エネルギー庁の幹部には、東南アジア諸国の政府高官からひっきりなしに協力要請の電話やメールが舞い込んでいる。

 各国に衝撃が走ったのは5月。アジア開発銀行(ADB)が示したエネルギー向け融資政策の草案が、想定をはるかに超える厳しさだった。「いかなる新規の火力発電案件にも資金支援しない」と明記し、さらに「石炭火力設備のアップグレードや改修にも関わらない」と駄目を押した。

 火力発電の新設が許されないとしても、「改修なら融資を受けられるのでは」との思惑も従来のアジア諸国にはあった。しかし、同じ石炭からより多くの電力を生み出す超々臨界圧(USC)のような設備への更新でも、原則として認められないことになる。

 国際エネルギー機関(IEA)は2019年時点で、東南アジアのエネルギー需要が今後約20年で6割増えると予測していた。電源構成の4分の1は石炭が占め、その利用量は現在の9割増という絵を描いていた。石炭なら安価で、新興国にはもってこいだった。

東南アジア、石炭利用は拡大見通しだった
●2019年時点の各国政策に基づく1次エネルギー需要予測
<span class="fontSizeL">東南アジア、石炭利用は拡大見通しだった</span><br><span class="fontSizeS">●2019年時点の各国政策に基づく1次エネルギー需要予測</span>
廃棄物処理の熱を有効活用した発電はアジアで増える見通し(写真はドバイ)(写真=伊藤忠商事)
注:国際エネルギー機関(IEA)Southeast Asia Energy Outlook 2019から作成
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 ところが、この2年で世界はすっかり変わった。特に石炭火力は1キロワット時当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が液化天然ガス(LNG)火力の約2倍あり、注目を集めやすい。

 まず影響するのは資金繰りだ。米ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースは19年末以降に相次ぎ、石炭火力への融資縮小を打ち出した。海外では政府への建設申請書に「coal(石炭)」という文字があると、環境団体から猛抗議を受けるようになった。日本の大手銀行も、新規の石炭火力への融資は原則停止せざるを得ない。

<span class="fontBold">写真左:石炭火力発電は温暖化を助長するとして、各国で猛抗議を受けるようになった<br>写真右:主要7カ国(G7)は石炭火力への公的資金支援を停止すると合意した</span>(写真=左:AFP/アフロ、右:YONHAP NEWS/アフロ)
写真左:石炭火力発電は温暖化を助長するとして、各国で猛抗議を受けるようになった
写真右:主要7カ国(G7)は石炭火力への公的資金支援を停止すると合意した
(写真=左:AFP/アフロ、右:YONHAP NEWS/アフロ)

G7は日本に配慮も

 そして今回のADBの方針である。実は先進国の政府間合意よりも厳格な内容だ。菅義偉首相も参加した6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、日本が外圧に押されたように見えて、他国から譲歩も引き出していた。

 G7の共同宣言では「排出削減対策のない(unabated)石炭火力には、国際的な投資を今すぐ停止すべきだ」と合意した。この「unabated」という単語がミソで、語義は「いかなる削減措置もない状態」だ。額面通りに文章を受け取れば、温暖化ガスを削減できれば即停止にはならない。「アジアの現実を考えてほしい」と訴え続けてきた日本に各国が配慮した。

 まだ何をもってして温暖化ガスの「削減措置」と国際的に認めるかは決まっていない。ただ、このG7の路線ならCO2を分離・回収・貯留する「CCS」や、有効活用する「CCU」といった技術を組み合わせる余地がある。

 しかし、ADBの方針はこれらの淡い期待を打ち砕いた。1件当たり数百億~1000億円超かかる電力インフラは、新興国の金融機関だけでは賄いきれない。先進国の銀行が関わる場合も、協調融資でリスクを分散する。その呼び水としてADBは融資に関わり、先進国の政府系金融も巻き込んできた。このため、ADBがノーと言う案件は、規模が大きいほど成立しづらい。

 もともとADBは戦後、首相を務めた岸信介氏の提言もあり、日米主導で1966年に設立された。マニラに本拠を置く国際開発金融機関だが、歴代トップは日本政府から輩出してきた。

 現在の浅川雅嗣総裁は、財務省で財務官を務めた期間が歴代最長。国際的な税制改革の議論もリードしてきた実力者だ。それでも「エネルギー政策の発表にあたり、事前に日本とはすり合わせられなかった」(政府関係者)。日本が筆頭株主とはいえ、現状で1国に義理立てするわけにもいかない。国際金融を巡る脱炭素プレッシャーの強さが表れている。

続きを読む 2/3 実情に合った「アジトラ」

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