長期的な需要の減少に、ドライバーの高齢化や人手不足で苦しむタクシー業界。外出の自粛や訪日外国人の消失を招いたコロナ禍が追い打ちをかけた。従来のビジネスモデルの限界をどう打破するか。地方でも都市部でも変革が始まった。

2021年6月中旬、「新人乗務社員」という腕章を付けた若いドライバーが都内の道路を走行していた。
「上司とか年功序列とか、人間関係でトラブルになるのが嫌で。自分一人で仕事できるのが気楽でいい」。こう話すのは、4月に都内タクシー大手の国際自動車(東京・港)に入社した遠山祐弥さん。4年制大学を卒業後、就職先としてタクシー会社を選んだ。ドライバーになれば平日にまとまった休みを取りやすく、学生時代から続けているバンド活動の練習時間を確保できることも魅力的だった。
国際自動車では14年から安定的に毎年100人以上の新卒人材を採用し続けている。今年の新入社員の一人、初芝満里奈さんは「合同企業説明会でタクシー業界を知り、受けてみようと思った」という。
ここ数年、タクシー業界では新卒採用に注力する会社が増えている。あるタクシー会社の担当者は「以前はドライバーは中途で採用するものという固定観念があったが、新卒や第2新卒でも希望してもらえることが分かった」と手応えを語る。タクシー都内最大手、日本交通(東京・千代田)には21年4月に約340人の新卒が入社。来年4月入社では600人超の採用を計画する。
「平均年齢59.5歳」──。全国ハイヤー・タクシー連合会の調査による、20年度のタクシー運転手の平均年齢だ。全産業の平均である43.2歳と比べると格段に高い水準だ。長年にわたりドライバーの不足と高齢化という課題に悩まされてきたタクシー会社が、新卒採用という解決策を見いだしている。
ただし、それは都市部の大手事業者に限った話だ。タクシーの需要が減り続ける地方部では高い収入が期待できず、ドライバーのなり手として手を挙げる若い人は少ない。奈良県などのようにドライバーの平均年齢が70歳を超える県もある。
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