「見せる栽培」でブランディング

 20年12月にリニューアルオープンしたサミットストア五反野店(東京都足立区)。その食品売り場には、infarm(インファーム)と書かれた栽培ユニットが存在感を放っていた。

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 イタリアンバジルにパクチー、そしてわさびルッコラが交じる。収穫日は週に2回。「採れたてなので香りがすごい。店内中に広まるぐらいだ」と、サミットの山元淳平執行役員は語る。

 インファームは独ベルリンに本社を構え、20年2月にアジア初の拠点として日本法人であるInfarm Japan(インファーム・ジャパン)を設立した。

 1つの栽培ユニットで約115m2の畑と同じ生産能力があり、土で育てる農業と比べ、敷地と水の使用量はそれぞれ95%減、輸送距離は90%減というエコ栽培を売りにする。日本ではサミットストア五反野店の他、紀ノ国屋の都内4店舗が導入している。

 店内のユニットで種から育てるわけではない。種まきから発芽までは、インファーム側が都内に設けた「ハブ」と呼ぶ拠点で一手に担う。そして発芽した苗を店内に持ち込み、栽培ユニットに入れる。「一度ユニットに入れてしまえば、その後はすべてソフトウエアで制御するので、水やりや肥料やりは一切必要ない」(インファーム・ジャパンの平石郁生社長)。品種にもよるが2~3週間かけて育て収穫、販売する流れになっている。完全な店産店消に比べると物流の負担が生じるが、大都市の近隣のハブで大量に苗をつくってスーパーに持ち込むことで、スケールメリットと短距離メリットの組み合わせでトータルコストを押し下げるビジネスモデルだ。

 今、水面下で導入を目指しているのが、次世代型の大規模栽培ユニット「Infarm Growing Center(インファーム・グローイング・センター)」だ。種まきから収穫まですべて自動化したもので、欧州では既に稼働している。内部は栽培スペースが幾層にも重なり、野菜ごとに気温や光、水量など最適な生育環境を再現しているため、設置面積25m2に対し、最大で1万m2の畑と同等の生産が可能だという。安全、衛生管理のため、完全に無人というわけではないが、各種工程の自動化により農作業に要する時間を90%削減できるとしている。

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 欧州で稼働済みの実物は、さながら巨大な立体駐車場のようだ。クルマがパレットに並ぶように野菜が整列している。ここで育ち、袋詰めした野菜をスーパーマーケットの物流センターに一括納品し、自社内の配送網に乗せて各店舗に運んでもらうという使い方を想定している。

 独インファームは、この次世代型ユニットを25年末までに世界に100以上設置する計画。日本では高さ10m程のユニットの導入を検討しており、設置に適した建設用地を探している。候補地は都心から遠く離れていない首都圏で、平石氏は「1年半後ぐらいに稼働させたい」と意気込む。

 次世代型ユニットが稼働しても店内の栽培ユニットは置き続ける予定。来店客の目を引くことで、「農薬を使っていないのか」「栽培で使う水量が少ないんだ」と徐々に理解してもらい、試し買いをリピートにつなげる効果を狙う。店舗を魅力的に見せるビジュアルマーチャンダイジング効果も見込め、インファームのブランド定着にも役立つと考えている。

 現状のLED水耕栽培はつくりやすく、需要が見込めるレタスに市場が偏り、全体の7割以上を占めるとみられている。インファームが現在日本で栽培できるのは15種類。欧州では75種類に達しており、日本での品種を増やす研究を急いでいる。

 農林水産省の市場調査によると、野菜の卸売価額は年間約2兆円。インファームは人工光による水耕栽培の国内市場が小売りベースで20年に240億円程度とみており、野菜市場に食い込む余地は大きい。現在の首都圏に加え、全国の大都市圏で5年以内に事業を始めたい考えだ。

工場野菜には伸びしろがある

 人工光による植物工場は10年ごろから多くのスタートアップが手掛けており、プランツラボラトリーもインファームも後発だ。両社はそのなかで、スーパーの店舗内での水耕栽培という新発想を突破口にコストを抑え、ビジネスを広げようとしている。

 野菜は朝採れの需要が強く、農家と結びついた伝統的な直売所が一定の人気を持つ。新型コロナウイルスの影響で、こうした野菜市場にネット販売による産直が広がっている。採れたばかりのものを消費者が求める傾向が強まり、スーパー内の生産、販売は今後も順調に伸びると両社は説明している。

 ただ、市場が広がれば大手も続々と参入してくる可能性が高い。プランツラボラトリー、インファームともに食品スーパーとの結びつきを強め、ブランド力の向上を急ぐ背景にこうした事情がある。大型植物工場による集約生産から、小売りの店内に畑を持ち込む分散栽培へ。育てる品種が広がっていけば、店そのものが直売所になり、「店内栽培の野菜で朝市」という未来も遠くはないようだ。