顔が見える野菜への評価

 プランツラボラトリーがテナントとして入り、西友は賃料を受け取る代わりに育ったレタスを全量買い取る。つまり、植物工場そのものを“店舗”として誘致したに等しい。そのままでは何の収益も生まない空きスペースが、レタスという食品スーパーにとっての売れ筋商品を生む“畑”に化けた。

 西友が店内に植物工場を取り入れ始めたのは20年2月だった。上福岡店(埼玉県ふじみ野市)3階の150m2ほどの区画にプットファームを導入し、レタスの水耕栽培を始めた。「GMS(総合スーパー)という業態のビジネスがだんだん苦しくなってきている中で、店内の空きスペースをどう有効活用していくのか。その課題に対するアプローチとして、非常に面白いと思った」と由佐氏は振り返る。

 生産や販売が軌道に乗ったため、2号店として選んだのが大森店だった。西友の基幹店であり、食品の売り上げも大きい。生産量も面積当たりの生産効率も上福岡店より引き上げ、毎日360株程度を収穫できる体制を整えた。いまや大森店近郊の30店舗以上にも、この「西友産レタス」が出荷されている。コロナ禍で食の安心、安全への意識が高まる中、「顔が見える野菜」として引き合いが増えているのだ。

 LEDなどの人工光を使って野菜を育てる植物工場は初期投資の高さがネックだった。栽培面積を確保するため、数億円から数十億円を投じて地方に大規模工場を建て、育てた野菜を時間をかけて大都市に運ぶ。自治体の補助金頼みの側面も大きく、輸送費などが販売価格に上乗せされる傾向があった。

小ぶりな仕掛けは東大仕込み

 しかし、西友のレタスは「1袋147円という単価で、きちんとビジネスが成立している」(由佐氏)のだという。

 なぜなのか。栽培システムそのものが、極めて低コストだからだ。例えるなら農業用のビニールハウスのような簡素な構造。従来の植物工場のように堅牢な建物をつくり、壁に断熱材を施工するのではなく、軽くて薄い特殊な金属膜を張り、熱をはね返す遮熱技術を採用。システムの設置費用を従来の工場の2分の1から3分の1に抑えた。

 使う水量も少なく、栽培装置も軽くできる。万が一、倒れても水浸しになりにくい。装置を何台置くかで生産能力の調整も容易にできる。小回りの利く仕掛けだから、西友のような既存の商業施設の空きスペースに導入できた。

 温度や湿度は、最適な栽培環境に収まるようにコントロールしてあるため、生育状況を逐一監視する必要はない。さらに空調トラブルなどによって一定の温度上昇の兆候をセンサーが自動感知すると、アラートが飛ぶ仕組みだ。いずれも、野菜の生育に必要不可欠な要素だけをシンプルに盛り込むことを徹底した結果である。

 プランツラボラトリーの藤田真美子取締役は「オーバースペックにしてイニシャルコストやランニングコストが高くなると結局、補助金が入らなければ事業として成り立たなくなる」と指摘する。「植物にとって必要なものをシンプルにつくるため、いろいろな技術を集約した。誰でも使えて、おいしく育つシステムに落とし込むまでに多くの研究成果が生かされている」という。

 栽培面では東京大学の河鰭実之教授と研究し、味の面ではミシュランガイド東京で10年以上2つ星を獲得し続ける「精進料理 醍醐」(東京・港)をはじめ、有名シェフの意見も取り入れてブラッシュアップを重ねてきた。

 次の目標は販売品種を増やしていくこと。実はレタスだけでなく、既にイチゴやトマト、シイタケ、キクラゲなどの栽培に成功している。プランツラボラトリーの100%子会社である「LEAFRU(リーフル)」のブランド名で展開していく計画だ。

 さまざまな野菜を店内で生産できれば、さらに見た目が鮮やかになり、より農場に近づく。エンターテインメント感も増すだろう。収穫体験も可能にすれば、強力な集客ツールになるかもしれない。

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