この記事は日経ビジネス電子版に『地方発 イノベーションの現場』(6月18日~24日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月28日号に掲載するものです。

少子高齢化や人口減少に苦しんでいるはずの地方で、新ビジネスの芽が生まれている。やがて日本を覆う課題の解決に商機あり、と大企業が幅広い産業分野でうごめく。過疎の町で芽生えたソリューションは、どこまでその舞台を広げていけるのか。

 今年3月、日本で初めて公道で無人の自動運転がスタートしたのは意外な場所だった。福井県北部に位置する永平寺町。同町の第三セクターが、国土交通省によって自動運転「レベル3」の水準と認められた車両を使い、運行を始めた。

<span class="fontBold">福井県永平寺町で片道2kmの遊歩道を自動走行する電動カート。利用者以外に同乗者はない。緊急事態に備えて、遠隔から1人のスタッフが3台を監視している</span>
福井県永平寺町で片道2kmの遊歩道を自動走行する電動カート。利用者以外に同乗者はない。緊急事態に備えて、遠隔から1人のスタッフが3台を監視している

 レベル3といっても、ホンダ製のように高速道路でシステムが主導して走る車両ではない。ヤマハ発動機の小型電動カートで、最高速度は時速12km。道路に敷設した電磁誘導線に沿って走り、カメラやセンサーが障害物を検知する。カートに運転者は乗っておらず、遠隔からスタッフが監視。緊急事態になれば即座に遠隔操作する。

 永平寺町は人口約1万8000人で、区域によっては高齢化率が4割を超える。そんな過疎の町でも、産業技術総合研究所(産総研)を軸に、車両製作や電磁誘導線インフラを担うヤマハ発、運行管理・管制システムの日立製作所など計6社・団体が集まった。その理由は「高齢化が進む地方で公共交通をどう維持していくのかという課題」(河合永充町長)に答えを出すためだ。

 河合町長は「持続可能な自動運転システムを築いて『永平寺町モデル』として他の地方へ展開させたい」と話す。

 人口減少などマイナス面ばかりに目が行き、企業が地方でビジネスの芽を育もうとする動きはこれまで乏しかったが、風向きは変わっている。新たなテクノロジーやシェアリングなど従来にない事業モデルが盛んに出てきたことが一因で、安い従来の技術も組み合わせれば地方の課題に商機を見いだせるとの思惑が広がる。

 特に、既存事業での成長が難しくなり、新たなビジネスに飢える大企業の動きが目立っている。舞台になっているのは政令指定都市、中核市、特例市を除く地方の自治体で、その数は日本全体の約9割、人口で約半分を占める。人口は減っているが、大都市圏の未来を先取りしているとも言える。

様々な産業分野で新ビジネスを発掘
●全国の取り組み事例
<span class="fontSizeL">様々な産業分野で新ビジネスを発掘</span><br><span class="fontSizeS">●全国の取り組み事例</span>
(写真=PIXTA)
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過疎の町に通った広告マン

 新潟県との境に位置する富山県朝日町は人口約1万人で、高齢化率が40%を超える。そこへ2019年秋から、週1回のペースで通った広告マンたちがいる。博報堂で次世代交通サービスであるMaaSに関わるメンバーだ。町との対話を続け、20年8月にライドシェアサービス「ノッカルあさひまち」を始めた。

 博報堂は19年、伝統的な広告ビジネスのようないわば受け身の取り組みだけでなく、自ら社会課題を見つけてビジネスにすることを決めた。ビジネスデザイン局で部長を務める畠山洋平氏がその話を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのが田舎で一人暮らしをしている母親だった。過疎化が進み、路線バスの本数はどんどん減っている。今はマイカーで移動しているが、高齢で運転できなくなったらどうなるのか。そこから地方の課題を探る全国行脚を始めた。

 つてを頼って訪ねた朝日町は、20年ほど前に路線バスが廃止され、3台のコミュニティーバスだけが頼みの綱だった。「ここで起きていることは、やがて全国に広がる」と、畠山氏は事業の可能性を直感。博報堂の社内で、大都市圏での鉄道会社とのMaaSプロジェクトに取り組んでいた堀内悠氏と、提案を作って同町に持ち込んだ。

 「最初に提案した内容はノッカルとは全く異なり、今や跡形もない」と畠山氏は苦笑する。観光客をターゲットに入れた移動サービスだったが、「それよりも今住んでいる町民の移動を便利にするのが最大の課題」と指摘を受けた。運行本数や停留所の数が限られるコミュニティーバスを補える移動手段が求められていた。

<span class="fontBold">博報堂が富山県朝日町で始めたライドシェアサービスは住民がマイカーで高齢者を送迎する</span>
博報堂が富山県朝日町で始めたライドシェアサービスは住民がマイカーで高齢者を送迎する

 とはいえ、町の財政負担でバスの台数を増やすのは難しい。そこで町民自らが登録ドライバーとなり、すでにあるマイカーを移動手段として使うことにした。マイカーでの移動予定をウェブサイトに登録。乗車予約が入った場合のみ、利用者を送迎する。利用料は1回600円で、そのうち200円を実費としてドライバーに還元する。今では約20人が登録している。

 町民ドライバーは50~60代が中心で、運行の指示はオンラインで行っている。一方、送迎を希望する人の平均年齢は80歳を超えており、IT(情報技術)リテラシーはほぼゼロ。当初は「どうやったらウェブサイトを使ってもらえるか」と悩んでいたが、電話でも予約を受け付けることにした。今のところ予約の98%が電話によるものだ。

 朝日町住民・子ども課の寺崎壮係長は「当初、博報堂はアイデアを出すだけだろうと思っていた。しかし公民館での会合や、各家庭へのポスティングまで一緒に取り組んでくれ、本気度を感じた」と振り返る。

 堀内氏は「この経験を生かし、交通計画のコンサルティングや運行システムの納入、住民の外出を促進するようなマーケティング施策などをビジネスにしていく」と決意する。すでに浜松市でノッカルと同様のサービスを展開する計画が進んでいる。

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