この記事は日経ビジネス電子版に『絶望の労働組合(上)東芝子会社で閑職、たった1人の闘争』(6月10日)、『絶望の労働組合(下)JR東でスト失敗、そして誰もいなくなった』(6月11日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月21日号に掲載するものです。

コロナ禍で日本中を人員整理の嵐が吹き荒れる。それでも労働界はおとなしい。組合執行部は闘う組合員を見捨て、組合員は闘う執行部を見捨てている。東芝子会社とJR東日本の現場から、行き詰まった日本の労働運動を報告する。

東芝エネルギーシステムズの本社前(川崎市)に立つ小里正義氏は会社を相手に法廷で戦う(写真=都築 雅人)

 小里正義氏が勤務先の東芝エネルギーシステムズ(川崎市)から与えられている業務の一つに、ドアノブや机の消毒がある。消毒液を付けて布で丁寧に拭けば、従業員が新型コロナウイルスに感染するリスクを減らせる。従業員の名札作りや、ラベルプリンター「テプラ」による印字なども任されている。

膨らんでしぼんだ期待

 いずれも地味ながら、誰かがやらねばならない大切な仕事だろう。とはいえ小里氏は、ベテランの域に達した52歳のIT技術者だ。長年培った専門性を生かせる業務内容ではない。やる気をくじき、自主退職に追い込む「追い出し部屋」に所属しているのだと感じながら、日々の業務をこなしている。

 小里氏は1992年に東芝に入社して以来、主に社内で情報システムの構築や運用を手掛けてきた。2017年には発電設備部門の分社化により誕生した子会社の東芝エネルギーシステムズに移り、引き続きシステム構築を担った。

 システム構築からドアノブ拭きへ──。劇的な業務内容の変更は上司による19年1月の通告から始まった。

 当時、東芝グループは米原発子会社の巨額損失で経営危機に見舞われ、再建に向けて19年度から中高年を対象に早期退職者の募集を予定していた。早期退職の意思確認だと思って臨んだ面談の場でいきなり上司から「あなたの居場所は4月以降、この会社にありません」と言われたという。

 年齢を考えれば希望する待遇での再就職は容易ではなく、退職の勧めに応じるわけにはいかなかった。「労働組合なら守ってくれるかもしれない」との期待を胸に、小里氏は日を置かずして東芝労組の支部を訪ねた。支部の書記長からは、「会社側が本当に退職勧奨をしているのか、確認してみる」と言われ、その日は辞した。

 ところが後日、支部の書記長に「再度会ってほしい」とお願いしても、「忙しくて時間が取れない」とつれない。電子メールを出してもなかなか返事がなく、小里氏の期待はしぼんでいった。

 小里氏は東芝労組の本部で組合の顧問弁護士(現在は退任)とも会った。しかし顧問弁護士に窮状を訴えても、「会社が退職勧奨などするはずがない」と言われたという。

 過度な退職勧奨は、違法と見なされることもある。そのため、上司が退職を勧めたとなれば、小里氏にとっては雇用を守る上で好材料となる。それなのに信じてもらえなかった。

続きを読む 2/5 物流倉庫での箱詰め作業

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