この記事は日経ビジネス電子版に『「日本型ジョブ型雇用」は矛盾した言葉、本質が理解できていない』(5月19日)、『ジョブ型にしたら、社員をクビにしやすくなるのか?』(5月26日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月7日号に掲載するものです。

ポストごとの職務内容を明示した「ジョブ型雇用」を導入する企業が増えている。雇用慣行の改革につながると期待される一方で、安易に飛びつけば混乱を招くリスクも。人事制度の専門家が要諦を語った。(4月7日開催の日経ビジネスLIVEを再構成した)

聞き手は小林暢子・日経BP 総合研究所主席研究員

大手企業を中心に「ジョブ型」雇用の導入が急速に進んでいます。一方で、本質や問題点を理解しないまま言葉が一人歩きしているように思えます。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)氏
雇用ジャーナリスト/中央大学大学院客員教授
リクルートワークス研究所で雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社を設立。厚生労働省労働政策審議会人材開発分科会委員なども務める。『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)など著書多数。

海老原嗣生・中央大学大学院客員教授(以下、海老原氏):そうですね。ジョブ型という言葉は実は、日本でしか使われていません。もともとは、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎さんが日本と欧米の働き方の違いを説明するために、それぞれ「メンバーシップ型」「ジョブ型」と表現したのが最初です。

 では根本的な違いは何か。私は人事制度の等級を「人」につけるか、「ポスト」につけるかだと考えています。

 欧米企業が人を採用するとき、「オファーレター」を出します。そこには、ポストごとの職務等級が「Grade5」などと書いてあります。

日本は人に、欧米はポストに等級をつける
●日本と欧米の人事管理の違い

欧米企業の場合、職務等級はそのままポストに読み換えられるのですね。「2級はヒラ」「3級はサブリーダー」「4級はリーダー」という具合ですね。

海老原氏:そうです。欧米の仕事はすべてポストにひも付いています。ヒラの人はヒラの仕事とヒラの給料、サブリーダーの人はサブリーダーの仕事とサブリーダーの給料です。ポスト、仕事、給料がイコールで結ばれています。

 欧米企業は経営計画で必要なポストを定め、「あの支社の売り上げ規模ならリーダー1人にサブリーダー1人、ヒラ社員3人だな」という具合に人員構成を決めます。ヒラ社員が数年勤めて多少能力が上がったとしても、ポストがいっぱいなら昇進できず、給料も上がりません。

 一方で日本では、人に等級がつきます。入社して1〜2年たち、ある程度仕事ができるようになると等級が上がり給料が上がります。

 そのため日本企業では、ヒラ社員の中にも2等級や4等級が混在しています。非正規社員が含まれていることもある。外から見たら、それぞれの仕事の違いなんて分かりません。分かるのは給料の違いだけです。結局、年齢が高い人ほど給料が高く、非正規の給料は低い。これは年齢差別、雇用差別だとして、経済協力開発機構(OECD)からも何度も指摘されてきました。

欧米では「ポスト」=「給与」
●日本と欧米企業の給与制度の概念
続きを読む 2/5 総人件費増加に悩む日本企業

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