脱炭素のキーワードとして、にわかに注目されるようになった「CCUS」。カーボンニュートラル(炭素中立)を実現する上で、最後のとりでと言われるのはなぜか。「夢の技術」と期待される一方で、普及に向けて多くの課題も抱えている。
「日本が誇る省エネ、水素、CCSなどの技術を最大限活用し、世界の脱炭素移行を支援します」
4月22日、米国主催の気候変動サミットで、日本の脱炭素技術のプレゼンスを高めたい菅義偉首相はそう語った。
石油危機以降、「乾いた雑巾を絞る」と例えられた省エネのノウハウ、液化天然ガス(LNG)輸入大国であることから発達した水素関連。それに並ぶ第3の技術として、CCSを位置づけた。

「CCS」とは発電や化石燃料の生産などで生じる排出ガスから二酸化炭素(CO2)を分離・回収し、地中深くに貯留する技術を指す。回収したCO2を産業に利用する「CCU」と合わせて、「CCUS(CO2回収・利用・貯留、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と総称される。
「日本の首相が国際舞台でCCSについて言及した例は、過去に記憶がない」。気候変動政策に通じる有識者はそう語る。
昨年10月、菅首相は2050年までに日本の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル(炭素中立)を達成すると宣言。12月にその工程表として発表した「グリーン成長戦略」の中で、CCUSを炭素中立のいわば最後のとりでと位置づけた。
「実質ゼロ」の要
そこまでCCUSが注目されるのはなぜか。
自動車などのモビリティーでは、ガソリンから電気へと燃料の「電化」が加速し、発電部門でも太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換が徐々に進んでいる。それでも化石燃料の使用を「ゼロ」にすることは難しい。鉄鋼やセメントの製造など、化学反応の過程でどうしてもCO2が大量発生してしまう分野もある。さらに、脱炭素につながるエネルギー媒体として注目される水素やアンモニアも当面、大部分は化石燃料を改質してつくるのが実情で、その際に多くのCO2が発生する。「実質ゼロを実現するには、森林吸収でも賄いきれないCO2を回収し、大気に放出しないようにする技術が不可欠」(グローバルCCSインスティテュートの南坊博司・日本代表)なのだ。
温暖化ガス排出削減の国際的な枠組みである「パリ協定」では、今世紀末までの地球の平均気温の上昇幅を、産業革命前と比べてセ氏2度(2℃)未満に抑える目標を掲げる。国際エネルギー機関(IEA)は、「2℃目標」実現のために70年に世界全体で炭素中立にする上で、今後求められる追加的なCO2削減量のうち、70年時点で2割をCCUSが担うと予測する(上グラフ)。
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