少子高齢化、中国との競争、脱炭素での覇権争い──。製造業を取り巻く環境は近年、一変した。国内で工場の縮小が相次ぐ。日本製鉄が製鉄所の閉鎖を決めた街では多くの雇用が失われる。「城主」の弱体化によって衰退の憂き目にさらされる企業城下町は今、まちづくり再考を迫られている。

「重厚長大産業の代表企業がいなくなるとは……」。広島県の呉市産業部の担当者は落胆する。無理もない。日本製鉄は市内にある瀬戸内製鉄所呉地区の高炉2基を2021年9月に休止し、その2年後の23年9月末に製鉄所を全面閉鎖する。世界粗鋼生産の6割を握る中国鉄鋼メーカーとの競争は激しい。日鉄は自社の製造コスト競争力を回復するため生産能力の縮小を決断した。
●呉市の産業別従業員数(2018年、合計2万644人)に占める割合
1951年に軍需工場跡地に製鉄所が建てられてから約70年、呉経済をけん引した中核産業が消える衝撃は計り知れない。上のグラフを見てほしい。地域経済分析システム「RESAS」によれば、呉市の鉄鋼の製品出荷額は約3800億円で市全体の約35%。協力会社を含めて従業員は3000人で、人口流出の危機が迫る。呉市産業部の担当者は「今まで重厚長大の恩恵を受けてきた。これだけの規模の産業、雇用が失われるインパクトは相当大きい」と警戒する。県や市は日鉄に呉地区存続を求めているが、日鉄の決断は変わりそうにない。市は「雇用対策、企業の事業継続をできるだけ支援する」と奔走する。
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