この記事は日経ビジネス電子版の連載「ガソリンスタンドサバイバル」(4月23日~)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月3日号に掲載するものです。

ピーク時には6万以上あった全国のガソリンスタンド。今やその数は半分以下となった。クルマ離れや低燃費化でガソリン需要は減り続け、さらに電動化の波が襲いかかる。地方の生活インフラとなっているが、後継者難にも直面。生き残りのカギを探る。

栃木県大田原市の「須佐木SS」。一時は閉鎖の危機に直面したが地域が一丸となり存続させた

 栃木県大田原市の須賀川地区。600人ほどが暮らすのどかな中山間地域でで、2019年12月、ガソリンスタンドが閉業するという話が突如持ち上がった。長年スタンドを営んできた店主がこの地を離れることになったが、後継者がいなかったためだ。住民の多くが車や原付きバイクで移動し、農機具や山仕事の機械を動かす燃料や冬を越えるための灯油も欠かせない。高齢者を中心に地域住民の間で不安が広がった。

給油所の数はピーク時から半減した
●ガソリンスタンド拠点数とガソリン販売量の推移
出所:経済産業省「資源・エネルギー統計年報」

 今、全国各地でこうした風景は珍しくなくなっている。資源エネルギー庁によると、1994年度のピーク時に6万カ所以上あった給油所は2019年度末時点で2万9637カ所と25年間で半減した。直近3年間は1日平均1.7カ所が廃業・撤退に追い込まれた。

 減少が続く背景の一つがガソリンの需要減少だ。車の燃費性能向上や軽自動車の普及などにより、国内では04年以降ガソリン販売量が減少傾向にある。今年1月には政府が35年に全ての新車販売を電動車にする方針を打ち出したため、さらなる需要減は避けられない。

 欧州では既に電気自動車(EV)向け充電設備の数がガソリンスタンドの拠点数を超えた。石油流通業を専門とする桃山学院大学の小嶌正稔教授は「国内の給油所数は30年に2万カ所程度、40年には1万3000カ所を下回るのではないか」と予測する。

 事業者を悩ませるもう一つが後継者難だ。ガソリンスタンドを運営する事業者の97%は中小企業。ENEOSホールディングスや出光興産などの石油元売りから仕入れて販売する「特約店」「販売店」がその大半だ。経営環境の悪化に加え、店主の高齢化や後継者の不在、老朽設備の修繕費が捻出できないなどの理由から、やむを得ず店を畳むといった例が増えてきている。

 全国石油協会の調査によると、20年度時点で約1割の事業者が廃業や規模の縮小を検討しているという。業界内では「ガソリンスタンドには先が無い」との諦めムードも漂うが、生活インフラの一部になっている地域も多く、簡単には廃業できない。

 冒頭の大田原市のガソリンスタンドの場合、商店を併設しており「地域の小売店」としての存在意義も大きかった。10km以上先には別のガソリンスタンドもあるが、70歳以上の住人が多く暮らすこの地域では、近場で日用品や食材を手に入れられる場所となっていた。

 何とかガソリンスタンドを存続できないか──。地域住民が頼ったのは、地元の臨済宗妙心寺派の寺院、雲巌寺だ。住職の私財と地元有志の出資金を元手に運営会社のかなめ(大田原市)を設立。前の店主から設備を買い取り、事業を引き継ぐ形で給油所を存続させた。以前の店舗で働いていたアルバイトスタッフにそのまま残ってもらい、給油所で勤務した経験を持つ地域の高齢者を有資格者として採用した。

 地域が一丸となって運営に取り組み、初年度の赤字は避けられた。かなめの社長を務める雲巌寺僧侶の高憲氏は「(ガソリンスタンドが)先細りなのは承知。それでもこの町で求められる限りは、頭を使い何とかカバーしたい」と、地域とともに続ける覚悟を見せる。

出光、EVのシェア拠点に

 脱炭素という避けられない未来が待ち構えるなか、いかに新しいニーズに応え、形態を変えながら存続していくか。元売り各社もビジネスモデルの転換を急いでいる。

 出光興産は競技用自動車の企画・設計のタジマモーターコーポレーション(東京・中野)と組み、超小型EVの開発・製造に乗り出した。価格は1台当たり約150万円で、トヨタ自動車が20年に発表した2人乗り超小型EV「C+pod(シーポッド)」の約165万円を下回る。

出光興産はタジマモーターコーポレーションと超小型EV(右)のサービス事業に乗り出す。左はタジマの田嶋伸博会長

 ガソリンスタンドに設置し、買い物や子供の送迎といった5~10km圏内での移動の足として利用してもらうのがその狙い。このEVシェアリングサービスをガソリンスタンドの新たな収益源にする考えだ。

 「これ以上、ネットワークを減らさない」。出光興産の森下健一上席執行役員はこう強調する。同社系列の約6400カ所のガソリンスタンドでは4月から新ブランド「アポロステーション」を導入し、23年をめどに順次看板を付け替えていく。同社系のガソリンスタンドの利用者は年間3000万人、決済額は3兆円。その蓄積を生かし、EVのシェアリングサービス参入や充電設備の整備だけではなく、店舗の一部をコワーキングスペースにするといった取り組みを進める。

続きを読む 2/3 元売りは3陣営に集約

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3224文字 / 全文5679文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「SPECIAL REPORT」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。