少子高齢化に伴って増加する空き家に自治体は頭を悩ませている。だが、コロナ禍で変化した生活様式が空き家活用の新手法を生んでいる。「負のストック」の有効利用が社会変革の起爆剤になろうとしている。
「危険な空き家が放置される状況は社会経済的災害だ」
これは滋賀県野洲市の山仲善彰前市長の言葉だ。同市は2018年、10年以上人が暮らしていない分譲マンション(上の写真)を「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家特措法)」による「特定空き家等」に認定した。台風などで損壊した建物の鉄筋がむき出しになり、アスベスト飛散のリスクを抱えていたためだ。20年に行政代執行で解体したものの、公費から支払った工事費約1億1800万円のうち現在までに回収できたのは約3900万円。全額回収の見通しは立っていない。
空き家特措法の定義では「おおむね1年間使われていない」住宅が空き家となる。その数は少子高齢化に伴って伸びているが、15年の空き家特措法の施行後は空き家の除去率が上昇し、増加傾向にやや歯止めがかかった。総務省が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」では18年の空き家数は849万戸、総住宅数に占める空き家数(空き家率)は13.6%だった。野村総合研究所は20年先までのシミュレーションを実施しており、高い除去率を維持すれば38年の空き家率は20.8%、対策が不十分な場合には30.5%になると予測する。
いずれの未来を選ぶにせよ、20年後には住宅の5戸に1戸が空き家となる時代が到来する。ならば、有益な活用法を考えるべきだ。実際、「セーフティーネット」や「自治体による移住促進」「クラウドファンディング」など新しい空き家の生かし方が始まっている。

東京都豊島区のJR池袋駅西口から徒歩13分。立教大学に近い住宅地に築35年の空き家を改装したシェアハウス「共生ハウス西池袋」がある。20年6月にオープンしたこの建物の入居者は、80代の高齢女性と発達障害を抱えた40代男性だ。80代女性は2月に引っ越してきた。この女性は「新型コロナで仕事が減って収入が10分の1になった。アパートの家賃の支払いに困って区に相談したところ、共生ハウス西池袋を紹介してくれた」と話す。

事実、池袋駅にほど近い物件としては家賃が安い。その理由は共生ハウス西池袋が豊島区初の「シェアハウス型セーフティーネット住宅」であるためだ。区の家賃低廉化補助(月額3万円)が利用できるため入居者の負担額は1部屋(10~12m2)当たり4万8000~4万9000円。厚生年金の平均受給額が月額14万6000円ほどであることを考慮し、一人暮らしの年金生活者が無理なく暮らせる設定だ。高齢者や障害者、生活困窮者など「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない「住宅セーフティーネット制度」にも登録している。
転貸借でオーナーに収益還元
共生ハウス西池袋は空き家を活用した「としま・まちごと福祉支援プロジェクト」の一環だ。
豊島区の空き家率は18年に13.3%と東京23区内で最も高い。一方で高齢者による住宅相談の急増が課題となっている。最も多い相談内容が「高額家賃の負担」だ。共生ハウス西池袋の事業運営に携わる一般社団法人コミュニティネットワーク協会(東京)の渥美京子理事長は「日本賃貸住宅管理協会のアンケートでは賃貸物件オーナーの7割超が『高齢者世帯の入居に拒否感がある』と回答している。65歳以上の単身者は賃貸物件が非常に借りにくい現実がある」と説明する。
そこで増える空き家をリノベーションして、住宅の確保に配慮が必要な人々のシェルターとして活用した。この取り組みは空き家のオーナーにもメリットがある。
国土交通省は17年から新しい「住宅セーフティーネット制度」をスタートしており、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を設けた。オーナーは住宅をこの制度に登録することで住居の改修費や家賃の低廉化補助などの経済的支援が受けられる。
豊島区も独自の共同居住型住宅改修費助成を設けている。共生ハウス西池袋はその適用第1号となり150万円の助成金を受けた。オーナーは改修に650万円を拠出しているが、コミュニティネットワーク協会と結んだサブリース(転貸借)契約で安定した収益が得られる。渥美理事長は「このプロジェクトでは空き家オーナーと10年の定期借家契約を結び月額19万円を支払っている」と話す。共生ハウス西池袋は「空き家の増加」という自治体の課題が、「新しいセーフティーネット」として機能する好例と言えるだろう。
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